Day7 まわる
目を閉じているほんの僅かな間、黒鬼は言葉通り回想していた。ここが旅の果てなら、旅の始まりを。
黒鬼を鬼とした女は運命を機構のようだと話し、それがいかに精密で歯車が繊細かを事あるごとに朗々と、黒鬼と呼ばれる前の青年と自分へ言い聞かせていた。今でも思い出せるのは金の髪、そして魔女と呼ばれるに相応しい、角度によって色を変える宝石のような虹彩。
女が本物の魔女だと知ったのはすべてが決定的に終わった後だった。その言葉を借りるのならば、運命の歯車が完膚なきまでに壊れ、回ることを放棄した後ということになるだろう。
女は望んだものを何ひとつ手に入れることが出来ず、青年は母から授けられた誇り高き名を失い、女が望んだものを何もかも手に入れた。ただのひとつも望んでなどいなかったのに。
予期せぬくすぐったさに目を開いた時、昔見た時と何も一致しない庭と、まるで黄金のような日差しがこちらを射抜いた。黄金。わたしの忌まわしい存在理由。
見上げれば遭の静かな瞳とかち合う。黒鬼を見下ろす目はまだ黄金の魔力に囚われてはいないようだったが、遭がここへ来たのは石が峰の当主、しかも待望の「救世主」だからだということを思い出す。黒鬼の言葉を聞くことが出来る当主様。
女は尽きせぬ命と富を望んでいた。青年はそのすべてを手に入れ、黄金の悪魔と成り果てた。そして旅の果てで黒鬼と呼ばれることになった。
あぁ。それでも黒鬼は思う。遭は女とは違う。願うのは食べ物かもしれない。彼女は暴食の悪魔らしいから。
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