Day6 眠り
旅の果て。そう、長い長い旅の果てがまさか食卓の上だなどと考えたこともなかった。黒鬼は目を閉じる。傍らに立つ遭はそれを移動の了承として、黒鬼を右腕の中へ抱き込み、慎重に窓辺へと歩き出した。初めて抱え込んだ首は重く安定感に欠けたが、苦情を言うこともなく、ましてや抵抗することもなかったためすんなりと窓まで辿り着く。
置く場所はないため、遭は少しの間その場で首と共に窓の外を眺めていた。先程話題に上った温室、そして囲むように立つ木々の姿が見える。なるべく顔の下側へ腕を回しているから見えるはず、遭が腕の中を確認すれば黒鬼はまだ翡翠の瞳を瞼の下へ隠していた。
自分を見上げた時には酷く疲れたように映ったが見下ろすと幼くも感じられる、不思議な顔だ。性別は未だはっきりとはしなかったが、首しかないものにそんなことは無粋かもしれない。黒鬼はまだ目を開けない。まさか眠ったんじゃないでしょうね、遭がつむじへ息を吹きかけると、
「はは、びっくりした」
黒鬼は微かな笑い声を上げた。
「ここまで歩かせておいて寝るなんて、ずいぶんね」
「すまない。少し昔を思い出していたんだ。寝ていたわけじゃない」
というか眠れない。黒鬼の告白へ、
「羨ましいわね。ずっと食べていられるじゃない」
遭は一旦言葉を切り、
「いいから、ちゃんと外を見なさい」
首をしっかと抱え直した。
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