Day5 旅
それなりに大きい部屋が薄暗いのは重厚なカーテンが下りているせいだ、遭は突然気がついた。ビロードにしては薄いあれを開ければ、黒鬼からも温室が見えるかもしれない。
「あなた、光に当たると灰になったりするの」
改めて、白いテーブルクロスへ直接置かれた喋る首を見やる。浅黒い肌は日に焼かれたようだと感じていたが、生まれついてのものである可能性も否定できない。そも、前当主である父親からは「石が峰に富をもたらす黒鬼は生きている。黄金を石が峰に。私には出来なかったことを成し遂げてくれ」と時代錯誤甚だしい言葉しか聞かされていなかった。
そして教えられた住所で遭を待っていたのは経過した年月こそが誇りだと訴える陰鬱で重厚な西洋風の屋敷と、目の前の首だ。これは生きていると言えるのだろうか。少なくとも、死んではいないようだけど。
遭の疑わしい視線を取り合うことなく、黒鬼は何度か翡翠の瞳をしばたたかせた後、
「鬼と呼ばれるようになって長いが、そんなことはないはずだ」
カーテンを開けたいのならお好きに、視線を窓がある方へと流す。なら、と遭は窓へ近づくと右手で荒々しくカーテンを順に開けた。振り返れば差し込む陽が眩しいのか黒鬼は目を細め、僅かに皺を寄せている。
「良かった。無事ね」
「あぁ。日差しを浴びたのは随分と久しぶりだ……ここに来た時以来かもしれない」
首の横へ立ち、初めて至近距離で黒鬼を見たが黒髪は艶めき、肌のハリも申し分ない。身体がないこと以外はやはり、中南米出身の人間と変わらなかった。
「……どうしてこんなところに、黒鬼」
遭の呟きはひとり言のような小さな雫だったが、
「旅の果てがここだったのさ、遭」
間違いなく波を起こしていたらしい。顎を上げ、遭を見る黒鬼は年老いた子供のようだった。
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