Day4 温室

「まずは、じゃなかったわね。ごめんなさい。何よりもまず食事が大事なの、私」

「見ていればわかったよ。いいさ別に。でもこうして口を開いたということはもういいのかな」

「えぇ、食べたいものは食べ終わったわ。ここからは聞きたいことを聞いていきたいんだけどいいかしら」

「構わないよ、当主様」

「遭でいいわ。好きでなった訳でもないし、それはそもそも私の名前ではないのよ」

「それは失礼した、遭。わたしの名前は黒鬼だ」

「……名乗る気がないのなら別にいいわ。まずはそう、あなた、動けるの?」

「そこかい? いいや、動けない。首には足も手もないだろう」

「首だけで生きているのに融通が利かないのね。じゃあ、この屋敷がどんなところかも知らないのかしら。温室とか」

「残念ながら。温室があることを、今初めて知ったよ」

「そう。私も初めて来たから案内して欲しかったんだけど。花咲き誇る、とても立派な温室のようだったわ」

「花も好きなのかい」

「えぇ、美味しいから」

「今度連れて行っておくれよ、遭。美味しい花も咲いているかもしれない」

「摘みたては格別だから、そのついでになら」

 菊よりも薔薇がいいわ。遭の言葉に黒鬼もそうだね、薔薇はいいと頷いた。サロメよろしく銀盆に載せるのが首を運ぶ際のマナーだろうか。あぁでも口づけはしたくないわね、遭はひっそりと口を隠した。きっと齧ってしまうから。

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