第6話 追跡者、ザハ
谷底に、三人の女が降り立つ。
ザハと二人の部下である。
谷底の空気はよどみ、体液と砂が混じったような不快なにおいがする。
部下二人が汚臭に顔をしかめる中、ザハだけは平然としていた。
「相変わらずひどい場所だな、ここは」
岩陰のあちらこちらに、裸の男女がもつれ合ったまま転がっている。
一晩中、月の光を浴びて夢中でまぐわっていたのだろう。死んだように眠っているのか、あるいは本当に死んでいるのかもしれない。
やがてザハは立ち止まる。地面に血がしみ込んでいた。すぐそばには奇妙に形を歪めた多肉植物が生えている。
「み、御子さまの血でしょうか?」
部下の一人の呟きに、ザハは無言で首を振る。
血の跡は途切れながらも、岸壁に穿たれた横穴の暗がりに続いている。
そこに巨漢、テラスはうずくまっていた。
マヴロに負わされた傷はひどくただれ、びくびくと脈打っている。流し込まれた蟲が蠢いているのだ。
「誰にやられた?」
テラスは答えない。おんな、おんな、と呟くのみ。
ザハは舌打ちして立ち去ろうとしたが、ふと巨漢が持つスカーフに目を止めた。パレスの女官が使うものだ。無論、レフが身に着けていたものである。
ザハの口がニヤリと歪む。
怯える部下二人に構わず、ザハは巨漢に近づき、屈みこんで囁いた。甘い声だった。
「おい、お前にチャンスをやろう。一度きりだがな」
テラスはスカーフのにおいを嗅ぐのを止め、んぶ、と声を漏らした。
「御子を見つけ出し、犯せ。道中の露払いは私がやろう」
巨漢の息が荒くなる。唖然とする部下に、ザハは何でもないように付け足した。
「教育だよ。神聖な責務を放り出したその罪の重さを理解させねばならない。そのための教師を雇うだけの話だ」
ザハの目は少しも笑っていない。
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