第4話 異形の巨漢

レフは短い夢を見ている。

女官に四肢を抑え込まれ、目の前で白砂の女王が笑っている。

レフの腹部が膨らみ、全身に激痛が走る。ずるずると下腹部が裂け、中から異形の怪物が這い出して来る。レフは声にならない悲鳴を上げる。

そこで目が覚めた。見開いた視界に、興奮した巨漢の顔が大写しになる。

これは悪夢ではない。現実だと、一瞬にして彼女は理解する。

しかし彼女は動けない。両腕をがっちりと抑え込まれ、足は少し動かしただけで激痛が走る。着地の衝撃で骨が折れているのかもしれない。痛みと焦りで混乱して、動かし方がわからない。

巨漢はじっくりとレフの顔を覗き込んでいる。彼は楽しんでいた。これから犯そうという女の顔かたちが優れていることに、ひどく興奮していた。

抵抗しても勝ち目がない。怖いぐらい冷静にレフは理解する。

だとすれば、なすがままになった方がマシかもしれない。巨漢の目的はレフを犯すことであって、多分殺害することではないはずだ。

「〈目を閉じろ〉」

突如、男の声がレフに命じた。鼓膜の内側から響くような奇妙な声だ。

理知を感じる声色だが、誰の声かはわからない。目線を動かしても、巨漢の他には赤黒い多肉植物が岩肌に瘤を作っているだけだ。

だがとにかくレフはその声に従い、かたく目を閉じた。

巨漢はそこに合意を読み取る。女が己に身を委ねたのだと都合よく解釈する。悦びに顔が緩み、女の口を吸おうと顔を近付ける。

「〈張り裂けろ〉」

その時、巨漢の眼前で、多肉植物の瘤が炸裂した。

噴き出した赤黒い汁が、巨漢の血走った目を襲う。

「あつ、あつい」

ねばついた汁に粘膜を灼かれて、巨漢はたまらずレフから手を放す。

拘束が緩んだ瞬間、レフは素早く腕をかいくぐり、逃れようとした。しかし足の痛みで思うように逃げられない。

巨漢の腕が再びレフを掴みかけた時、岩陰から痩せた青年が姿を現す。彼は素早く銀の小刀で巨漢の背中を覆う蟲瘤を切りつけると、その傷に右手を押し付けた。

「〈掻き乱せ〉!」

背中の蟲瘤が奇妙に蠢き、一部が破れるとどす黒い血が噴き出した。巨漢は苦しみのあまり吠える。

その隙に青年はレフを助け起こす。

「こっち、こっちだよ!」

向こうの岩陰から小柄な少年が手を振っている。何が起きたのかレフにはわからない。

が、とにかく助けられたことは確かだった。

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