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自らの足で飛び降り、逃れられない死へと落ちていく間も、走馬灯という名の思い出、記憶が脳を走る。
まだ魔法使いとなる前の幼い頃の記憶。
あの病院で、初めて雪月と出会った時の大切な思い出。
魔法使いとなってからの、灰色の日々。
道を踏み外しそうになった時に現れた、雨宮暁子という魔法使いとの会話。
そしてあの日、今の僕と同じようにビルから落ちていた晴月を助けた時のこと。
あの時の僕は、なぜ自分が他人を助けたのかがわからなかった。でも、今ならわかる。
助けられる力があるのなら、助けるのは当然のことだ。
それに、僕の心のずっと奥深くに隠していた想い。捨てたつもりで、大事に隠し持っていたユメ。
僕は、ヒーローになりたかったんだ。
「──くん!」
声が聞こえる。なんだろう? あの世からのお迎えだろうか?
「──るくん!」
聞き覚えのある声だ。僕の大切な人の声だ。
僕は声の正体を確かめるために目を開ける。
「──灰夜くん! 手を!」
夜空を照らす三日月。それをバックに晴月が夜空から落ちてくる。そうして、必死に僕へと手を伸ばしている。
「灰夜くん! 手を掴んで!」
僕は手を伸ばして、その手を掴む。
瞬間、謎の浮遊感を感じた。これは、落下していた時に感じていたものとは違う。いや、それより、つまり、今の僕は──
「──白い……翼?」
地面まで残り二メートル。そこで僕の体は落下を止められた。
僕の手を掴んでいる晴月は、その背に白い翼を広げて宙に浮いていた。
「灰夜くん! よかった、間に合って」
「あ、ああ」
理解が追いつかない。雪月の背に生えている翼は、どうみても現実離れしている非常識(魔法)だ。
晴月は魔法使いだった? いや、だとしても雨はすでに止んでいる。どういうことだ?
「ゆっくり降りるね」
僕は翼を生やした晴月と共に地面に降りる。
「私ね、少し思い出したの」
「思い出した?」
「うん、八年前、交通事故にあう前の記憶……。細かい記憶はないけど、私は確かに魔法使いだった。思い出したのは屋上から飛び出してからだったけど、どうしてか出来る気がしたの。私なら灰夜くんを助けられるって」
「そうだったのか……。おかげで助かったよ」
「ううん、でもね、灰夜くん。目を閉じて?」
言われるままに目を閉じる。直後、パァンと乾いた音と頬の痛み。
「私のためだからって、目の前で飛び降りるなんて許せないよ。私にとって、灰夜くんはとっても大切な人なんだから。もう二度としないで」
「……そうだな。もうしないよ」
「うん、それとね──」
雪月は強く僕の体を抱きしめた。
「私のために、ありがとう。それに、昔みたいに晴月って呼んでくれた」
「ああ、僕も思い出したんだ。悪かったな、忘れていて」
「いいよ。それは許します」
そう言って、晴月は僕から離れた。言いたいこと、話したいことはお互いにまだまだあるが、今はその時ではない。
「晴月、また飛べるか? あの屋上まで」
「うん、大丈夫。やってみせるよ。でもね、この翼で飛ぶこと以外は出来ないかも……」
「いや、それで充分だ。助かったとはいえ、奴らを放っておくわけにはいかない」
「そうだね、行こう? 灰夜くん」
再び晴月の手を取って、奴らの元へと飛翔する。
今度こそ、本当に決着の時だ。
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