<3>


<3>


「──灰夜くん!」

 反射的に体は動いた。

 どうするか、どうなるかなんて考えない。

 頭よりも先に、心が私を動かした。

「な、おい──」

 後ろから聞こえる声は気にしない。気にならない。

 誰にも私は止められない。

 私がそうするべきだと思っているし、できると心が信じているからだ。


 そうして私はなんの躊躇も迷いもなく、飛び降りた灰夜くんを追うようにビルの縁から飛び出した。



「は、はは、はははははは! 面白い! あいつ、後を追って飛び降りやがった! 心中するとは! ……あー、くそ。でも、もったいなかったなあ。どうせなら泣きじゃくるあいつを犯して、俺のおもちゃにしてやろうかと思ってたのに」

「ふん、つまらん幕引きとなったが、まあ奴らはついでのことだ。本命は確保した」

 スーツの男は足元に転がる沖田の頭を掴み、無理やり半身を起こさせる。

「さて、吐いてもらうぞ沖田空人。雨宮暁子の唯一の弟子。まあ何も吐かなくても餌として使わせてもらう。あの馬鹿女を誘き寄せるためにな」

「……貴様……五年前の……生きてたのか」

「ほう、覚えていたか。そうだ。五年前にあの馬鹿女にやられた男だよ。回復とリハビリに五年もかかってしまった。だが、ようやく雪辱を果たす時がきた」

「……ふざけやがって。とっとと地獄に堕ちろ。クズが」

「……」

 スーツの男は沖田の頭を掴んだまま、沖田の背にナイフを突き刺した。

「……ぐぁ!」

「言葉には気をつけろ。あの馬鹿女と同じぐらい、貴様にも恨みがあるんだ。まあ出血多量で死なれても困る。アジトに帰って死なないように手当してやる。お前を殺すのは、あの女を殺してからだ。──おい、引き上げるぞ」

「はい、先生!」

 そうして委員会の男たちはその場を後にしようとする。油断、慢心、それが自分たちの破滅へと繋がることを知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る