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 スーツの男は沖田を引き摺りながら階下へ降りる扉へと向かう。藤永も後に続きながら、ふと足を止めて振り返る。

「先生、あそこに転がってるのはそのままでいいんですか?」

「ああ、あれにはもはや利用価値もない。なぜか廃ビルの屋上で不審死を遂げた死体。それでいい」

「……そうですね、さようなら、浅黄先生」

 藤永が物言わぬ死体に別れを告げた時、何かがビルの下から飛び上がってくるのを見た。

「……は?」

 その影は藤永たちの上空で動きを止め、一つの影が藤永目掛けて降ってくる。

「──お前、東雲!」

「とりあえずだ、一発殴らせろ、クズ野郎!」

 灰夜の全体重を乗せた渾身の拳が藤永の顔面を捉え、その体を吹き飛ばす。

「ガァ──!」

 藤永が手放して地面に転がった拳銃を灰夜は素早く拾い、銃口をスーツの男に向ける。

「動くな」

 翼をはためかせながら、灰夜の背後に静かに着地する雪月。その白い翼を見て、スーツの男は目を見開く。

「貴様、『覚晴者』だったのか?」

 非常識の中のさらにイレギュラー。

 魔法使いとしての大前提をひっ繰り返す、特例中の特例。

 灰夜も以前に父から教わっていた、御伽話の存在。天からの恵の雨を必要としない、覚醒した者。それが覚晴者と呼ばれる者。

「ハッ、なるほど。あの女にもその疑惑があったが、まさかここに来て本物とはな。面白い」

「せ、先生……カクセイシャとは、いったい……」

 顔を押さえながら、立ちあがろうとする藤永。それを横目で見ると、先生と呼ばれた男は藤永に向けて拳銃を向けると、躊躇なく引き金を引いた。

「――な……ん……で」

 銃弾は藤永の額を貫き、その体は糸が切れたように崩れ落ちた。

「貴様は武器を手放し、あまつさえ相手に渡した。零点だ」

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