幕間の雨宿り <3>

 幕間の雨宿り <3>


 沖田空人は灰夜と晴月を部屋に残し、同じ階にある喫煙所へと足を運んだ。誰もいない、薄暗い喫煙所の壁に背を預け、胸元から取り出したタバコを咥えて火をつける。最初の一口を深く吸い込んでからゆっくりと吐き出し、携帯電話を取り出すと、ある魔法使いに電話をかける。

「──もしもし。そっちの進捗はどうですか? ……ええ、なるほど。順調で何よりです。こっちも犯人に接触しました。素性も調べがついてます。正直に言って、僕よりも戦闘力が高い魔法使いですね。シンプルに対峙したら難しいかもしれません。……それは仕方ないでしょう。あなたの教え方の問題です」

 空人は通話先の相手、雨宮暁子と過ごした日々を思い返して苦笑する。「こうしてこう」だの「ああしてそれ」だの抽象的すぎる教え方に、「これは無理だな」と即座に悟っていた空人だった。

「ああ、それと以前話していた困った二人組の学生ですが、共に行動することにしました。……そうですね、自分らしくないですが、二人の瞳……いつぞやの自分を見てるようで。あなた流に言うなら、これは「彼らの物語」なのかもしれません。……ええ、だからと言って、ただの脇役で終わるつもりはないですよ。共に背負うつもりです。あの日のあなたのようにね」

 空人は五年前の天罰事件の顛末を思い返す。最後まで自分を尊重してくれて、震える手を握ってくれた赤い傘の魔法使い。いまだにあの手の温もりはを忘れることはない。

「二人組ですが、一人は魔法使いの男子で、もう一人は正義感の強い、まっすぐな女子です。……少し思い出してしまいますね。あいつに似たところがある。でも大丈夫でしょう。独りだったあいつとは違って、不器用そうですが骨のあるやつが隣にいる。あんな悲劇はもうごめんです」

 空人の言う悲劇とは、もちろん五年前の天罰事件のことだ。取り返しのつかないところまで進んでしまった、ある少女の物語。とてもまっすぐな正義感が歪められてしまった、壊れた正義の結末。今も空人が背負い続ける、罪と罰。

「今夜、こっちの事件は終わらせます。そっちも早く終わらせてきてください。……因みに、原稿の締め切りも迫ってますよ」

 空人の言葉に、電話先から悲鳴のような奇声が漏れる。相手の様子が容易に目に浮かび、空人は朗らかに笑った。

「じゃあ、そう言うことで。頼みましたよ、先生」

 電話を切った空人は、ちょうど吸い切ったタバコを灰皿に捨てて髪をかきあげる。

「さて、二人は順調かな。──俺も装備の確認をしないとな」

 決意に満ちた眼差しを眼鏡の奥に宿しながら、空人は喫煙所を後にした。


 


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