第1話 普通の日常?
「であるからして、ここラウタール王国が誕生する約300年前、別の国があったとされる」
「グラン・セネスとの関係も研究されており……っと今日の授業はここまでか」
終鈴が鳴り響く。休み時間特有の控えめな騒がしさと同時に、目が覚める。
「……うるせぇな。何で屋上まで声が響くんだよ……」
目を開くとそこそこの晴れ。日陰にいることで丁度良い暖かさになる、絶好の昼寝日和である。さらに授業をサボった背徳感、誰もいない屋上の開放感がスパイスとなり、より一層昼寝の快感を刺激する。
もう一眠りしようか、そう考えながらうとうと微睡んでいると突然、屋上のドアがバンッと思い切り開いた。
「モリト!!やっぱりここにいた!!」
……うるさい。
「また授業サボったでしょ!!その怠惰さどうにかなんないの!?」
……激しくうるさい。
「授業はちゃんと出なさい!!じゃないとヴィルムさんにまたチクるよ!!」
「うるせーなエマ。俺の勝手だろ?好きにさせろよ……」
少し苛立ちながら起き上がる。
このキンキンうるさい女は、エマ・ウィリアムズ。俺の事実上の保護者であり、姉というか母というか……そんな関係である。
「てか、よく恥ずかしげもなく制服着られるな。もう30超えてるだろ?」
恥じらいからなのか、怒りからなのか、顔を真っ赤にしたエマがすかさず反論する。
「私だって着たくないわよ!!こんな歳で制服なんて。でも英雄会議で決まったんだから仕方ないじゃない……。うぅ……」
「って他の人に聞かれたらどうすんのよ!!今の私たちは王立魔術学園の生徒なんだからね!!」
全く感情の起伏が激しい人である。
「しかし、童顔なのが功を奏したなぁ。今のところ全然30代ってバレてないぞ。ただ少し、たわわな部分の自己主張は激しいみたいだけど」
そう言うと、胸を抑えたエマから思い切りお尻を蹴り上げられる。
「何回30歳って言うのよ!!全く……」
「……とにかく、次の授業は出なさい。あなたはまだ17なんだから。この機会に青春を楽しみなさいよ!」
蹴られたお尻をさすりながら嫌々、はいよと返事すると、エマは説得を諦めたのか屋上から去っていった。
この一連の会話の通り俺とエマは特殊な事情で学園に通っている訳である。
嵐が去り、ひと息。完全に眠気が覚めた。伸びをしながら屋上から景色を眺める。
ラウタール王国。ラウタール城を中心に360°城下町のように大きく広がる、賑やかで自然豊かな国。そして、それを包み込むように張られている対セネス用の巨大結界。
ここからは見えないが、その先には立入禁止区域とされる、結界に入りきれなかった王国の一部が廃墟となって存在している。
「ふぁぁ……今日最後の授業くらい出るか……」
そう呟くと、俺は暫く見つめた王国の景色を後にして、屋上を去った。
ホシノモリト 北上貞二 @gassan1117
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