第2話
さて、ここまで来たら、実験はもう成功したも同然だ。
しかし、彼らは重大なことを決め忘れていたのだ。
「象に何を食べ物させる?」
角田の一声に「そうか!」と世界の知の巨人たちは膝を叩いた。
そうだ、このご時世だった!
つまり、このご時世なのだから、象のお尻から出てきた食べ物を後でみんなで美味しく食べなければいけないのだ。
だから「何を象に食べさせるのか?」これは大事な決め事なのである。あとで嫌いなものを食べるのは嫌だから、せっかくなら美味しいものが食べたい。
「しかし、象の体から出て来た物を食べると、象と間接キッスになるのではないか?」
しかし、この盛り上がっている最中に、空気の読めない一人の教授が手を挙げていった。なんで、このタイミングで白けることを言うのか。
……でも、どうだろう?
この疑問に世界の知の巨人たちはおもむろに手元の紙に恋の方程式を書き殴った。疑問に思ったら解決せずにはいられない。知の巨人とは、絶えず名探偵なのだ。
その結果『ギリギリ、間接キッスじゃない』と言う答えが導き出された。これには一安心と講義室はホッとした声が出た。
「ファーストキスは、やっぱり好きな人としたいぜ!」と気の緩んだ一人の教授が大声で言った。まだ53歳である。
「じゃあ、話を戻すが、何を食べさせようか?」
パエリヤだ!
スペインの教授が言った。
「みんなで、成功を祝って、パエリアを食べよう!」
「しかし、パエリアを食べると間接キッスになるんじゃないか?」
と、さっきの間接キスおじさんがまた言ってきた。どうして、こうも話の腰を折るのか?
……でも、どうなんだろう?
計算する。
その結果『そんくらいならどうでもいい』と言う答えが導き出され、これはこれで良いと言うことになった。
「ホッッダァックだ!」
アメリカの教授がネイティブな発音で言った。唾がすげー飛んだ。
「うなぎは細長いんだ! ホッッッッッドァァァクが合っている! そうに決まっている!」
「しかし、ホットドックを食べると間接キッスになるんじゃないか?」
またしても間接キッスおじさんだ。
またまた計算。
すると『お前、そろそろ黙れ』と言う答えが導き出された。さらに『セーターがダサい』と言う答えも導き出され、間接キスおじさんはショックで黙った。そして、毛玉を取る遊びに興じるのであった。
その後も、意見は出るんだが、どうも決め手にかける。これだけ世界中の人たちが集まっていると、全員が好きな料理というのはなかなか見つからないのであった。
「おでんはどうだ?」
そう言ったのは角田本人だ。
ジャパニーズおでん?
間接キッスおじさんが黙ったタイミングを見計らった角田の絶妙な妙手に世界中の知の巨人は黙った。
「おでんか、いいねぇ」
これは名案だった。
おでんなら、いろんな具材が入っているから、嫌いな食べ物がある人でも別のものを食べればいいだけなので、一安心です。
おでん、おでんで決まりだ!
「おい、みんな! ここはこの計画の言い出しっぺのジャパニーズ野郎に花を持たせてやろうじゃないか!」
「ああ、近くにセブンもあるしな!」
と、この一言で象に食べさせる料理はおでんに決まった。
そして、うなぎが口から出てきた夜はおでんで一杯やることになった!
翌日。
早速、象のお口におでんを入れる作業が開始された。
象は美味しそうにおでんを食べた。その様子を世界中の教授たちは嬉しそうに見守った。
あのおでんはいずれ、俺の腹の中に。
あのがんもどきは、明日、俺がいただく。
俺は玉子、玉子だ!
それぞれが明日食べる具材を無言でロックオンしながら、象のおでんを食べる作業を見送った。
しかし、夢想に耽る教授たちをよそに大事件が起きていた!
「うなぎが逃げました!」
なんと、この日のために準備していたウナギが逃げ出したのだ!
原因はニュルニュルか!
どうせ、ニュルニュルに決まってる!
やはり、アイツはニュルニュルなのね!
一斉にうなぎを保管していた部屋へと走る、世界の教授たち。
しかし、知の巨人たちの予想に反して、防犯カメラを見るとウナギが逃げ出した原因は、ニュルニュルではなかった!
「じゃあ、どうやってウナギはあの密室から逃げたんだ!」
「これです!」
怒りを露わに教授たちの前に映った防犯カメラの映像、そこにはなんと自分のニュルニュルを一切使わずに、昨晩、うなぎ部屋の掃除に来た弁髪の中国人の頭に乗っかり、丁髷のふりをして堂々と表から逃げていくウナギの姿が映っていたのだ。
これに館内のスタッフは誰も気づかないどころか、「よっ! ラーメンマン!」と掛け声をかける教授の姿が数名ほどが、どっこい映っていた。それを見て顔を真っ赤にするソイツら。
やられた!
悔しいがウナギの方が一枚上手だった。
理由はともあれ、弁髪の中国人がバイトの面接に来て、面白半分で雇った時点で勝負はついていたのだ。
ウナギが逃げた。
ということは、明日、誰が象の幸せをお口に送り届けるのだ?
しかし、便意はいつだって重力に引っ張られている。
それを痛感されられるように、翌日、
「産まれました! 元気な女の子です!」
飼育員が象のお尻から幸せが出てきた事を伝えにやって来てしまった。「なんで、女の子なの?」と尋ねると「チンチンがついてないからです!」と飼育員は元気に答えたのだった。
ほぅ。
『うんこは全部、女の子』と世界の知の巨人たちはメモった。またしても頭が良くなってしまった。
しかし、うかうかと喜んでいられない。明美と名付けられたウンコ。これを元の食べ物に戻す為のうなぎがいないのだ。
しかも問題はもう一つあった。
「うなぎは高い」
世界中の知の巨人たちの財布の中の金を合わせても260円にしかならなかったが、これではウナギを1ニュル買う事は不可能である。日本人であるはずの角田に至っては10円しか持っていなかった。
「じゃあ、ドジョウはどうですか?」
誰かが言った。
そして、知の巨人たちは顔を見合わせた。その視線は一斉に角田に向いた。
しかし、角田は首を縦に振った。これは、ゴーサインを意味していた。
会議室は歓声に沸いた。
しかし、ここでさらに問題が生じた。
ドジョウは1ニュル250円だったのだ。
買える事は買えたが、なまじ10円が余ってしまったがために「この10円は俺のだ!」と主張するもの同士による殴り合いが始まってしまったのだ。
そして角田が「その10円は私のです!」と主張すると「じゃあ、お前、1円も払ってねぇじゃねぇか!」と世界中の知の巨人たちは一斉に角田に殴りかかった。
もはや地獄絵図だった。
そして、気を取り直して、いよいよ、実験の日がやってきた。
象の幸せをドジョウの背中に括り付けて、いよいよ象のお尻の中へ投入だ。
と言うわけで、土壌を角田が象のお尻の中へ入れた。
象は日本語で「あああん!」と訳せる言葉で「パオーン」と鳴いた。
「これで、明日はドジョウのおでんが出てくるんですなぁ」
無事、象のお尻の中へ消えていったドジョウを見送った世界の知の巨人、そして角田が安心して笑い合った。
きっと明日は、象の口から、ドジョウが鍋のど真ん中で温泉にみたいに浸かっている熱々のおでんが出てくるのだ。ドジョウの頭にはタオルなんか乗せられちゃって。
今日のうちに酒を用意しておこう。
明日の夕飯は熱燗におでんだ!
うおおおおおおおおおおおおおお!
世界中の知の巨人たちは一仕事を終え、プレッシャーから解放され、大声を上げた。
角田もフッと笑った。
逆流屋角田、またしても大きな仕事を成し遂げたのであった。
そして大方の予想通り、ドジョウは象の口から出てきた。そして翌日の夕飯は熱燗にドジョウおでんではなく……ドジョウカレーになった。
逆流野郎 角田勇作の新たな旅立ち ポテろんぐ @gahatan
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