逆流野郎 角田勇作の新たな旅立ち
ポテろんぐ
第1話
例えば、電気である。
プロペラのついたモーターを電池に繋げば、プロペラは一気に回転し始める。逆に電池を外し、プロペラを手でぐるぐる回すとモーターが回転し、今度は電気が発生する。
これは発電の原理を説明するときによく使われる有名なやつだ。
シャケの話も有名だろう。
シャケの稚魚を川に話すと、海に出て一旦マサシになる。そしてマサシが「そろそろ地元で就職でも……」と思った頃合いでまた自分が生まれ育った川に戻って来て、大人のシャケになると言われている。
他にも嫁いで苗字が『川上』になった姉が、離婚して実家に戻ってきたら苗字は『坂下』に戻る。
右から左に行ったものが、左から右に戻るときには同じものに戻っているのは、この世にある抗えない法則の一つなのである。
そして、この原理を聞いたとき、すべての人間の脳裏にある大きな疑問が浮かび上がるだろう。
じゃあ、ウンコはどうなんだ?
この法則を利用すれば、お口で食べたご飯は消化され、栄養となり、翌日にはお尻から幸せという名に形を変えて、トイレに放出される。
という事は、逆にこの幸せをお尻から入れて、お口から出せば、またホカホカのご飯に戻るという事だ。
こんなモノは日を見るより明らかで、わざわざ証明する必要もないくらい当たり前である。1足す1が2になるのを、なぜわざわざ証明する必要があろうか。
しかし、学問の世界でそんな理屈は通用しない。
どんなに当たり前の事でも「じゃあ証明してみろ!」と言ってくる輩というのがいる。
百万回の「愛してる」よりも一度ぎゅっつ抱きしめたほうが早いだろ? と言いたげに、口で愛してる愛してるって言ってるくせに、もう半年も抱かれてないわでは、納得がいかないというのだ。
しかし、ここに大きな問題がある。
『ご飯→お尻→幸せ→お尻→ご飯』
どんな人間でも簡単に説明できるこの当たり前の理論を実験で証明する術が、まだこの世界には存在していないのだ。
「だってご飯を食べたら幸せになってお尻から出てくるんだから、その幸せをお尻から戻したた、口からご飯になって出てくるに決まってるじゃないか!」
世界中の知の巨人が世界中の学会で何度も顔を真っ赤にさせてこう叫んだ。
しかし、『言葉じゃなくて、今宵ベッドの上で示せよ』とセックスレスを学会に持ち込んでくる保守的教授陣たちは一向に首を縦に振らない。汚い体の上から着るネグリジェが余計に旦那のセックスレスを助長しているとも知らないで、こいつらと来たら。
もしこの理論が実用化されたら、ご飯を食べた人の幸せをお尻から戻せば、またご飯に戻るのだから、理論上永久にご飯が食べられるのだ。
これによって世界中のほとんどの国で食糧難の問題が解決してしまう。
にも関わらず、自分が旦那に抱かれないという当てつけで10年前くらいに辻希美のブログで揚げ足ばかりを取っていたブサイク教授たちによって、この夢の理論は永久に闇に葬られようとしているのだ。
しかし、ついにこの暴走するセックスレスコンボイのブレーキを踏むべき男が現れたのだ!
男の名は、逆流屋、角田勇作。
生まれた時から母親の胎動を逆走したのを皮切りにウォータスライダー、エスカレーター、マリオカート、どんなものでも逆流させたら世界でこの男の右に出るものはいない。
他にも高速道路を逆走する高齢者へ、上手な逆走のアドバイスなどもブログで積極的に発信するなど、近年では社会貢献も活動に取り入れている。
この男にかかれば、逆流性食道炎が逆に一周回って普通にスーッと胃へ流れて行くというほどの逆流の天才なのである。なのに何故か咳はしているという、もはや化け物だ。
この男なら、もしかして……夢を叶えてくれるかもしれない。
翌日、角田は依頼主の世界中の知の巨人たちを一度、会議室に集めた。
一つ大きな問題があった。
いくら角田と言えど、人間の肛門を逆流する事はできないのである。それは、人間の大きさと角田の大きさが同じだからだ。
(ここから先は少し物理の専門的な話が入るため、もし難しいのであれば飛ばしてもらっても構わない)
つまりこの条件下では「肛門<人間」であるが故に「角田>肛門」という不等式が成り立つ。肛門から何かを入れようとする場合に必要な条件は「肛門>X」という条件を満たす場合のみだ。
坐薬がお尻に入る理由は「肛門>坐薬」だからである。つまり、この時「角田>坐薬」という式も成り立つのだ。
仮に「角田<肛門」という条件の場合。
きっと角田は、お尻から入れたウンコをレミングスみたいに上手にお口へとエスコートしてくれるだろう。
たまに「ポコチン>肛門」という条件下で「痛い痛い!」や「ああああん!」という答えを導き出す同人誌が闇で出版されていることがあるが、このようなモノは物理学の観点から見ると邪道であるため、参考にしない方がいい。
過去に谷村新司の友人が「肛門>電池」という条件下で、電池を肛門に入れているところを恋人に見られ「僕はサイボーグなんです!」という回答をしたという面白エピソードを語っていた。
他にもコロコロコミックなどのギャグ漫画では「肛門<うんこ」と言う特大なウンコが登場するが、これも物理学の観点から言えば「ありえない」「出るはずがない」ので、こう言う文献から物理を学ぼうとするのは、控えた方が賢明である。
「象とうなぎを使います」
この角田の発言に会議室はどよめいた。
この男の打った鬼手の意図を誰もが計りかねたのだ。
この逆流狂いは、凡人にでもわかるように今回の逆流についての解説をし始めた。
「まず、象にご飯を食べさせて、翌日、象のお尻から幸せを出します」
「なぜ、象なんだ!」
「簡単です。象のお尻がデカいからです」
おお〜。
シンプル過ぎる理由に教授たちは驚愕した。すげーふつー。
つまり「象=大きい」と言う方程式である。
「そして、その象の幸せをウナギに持たせ、翌日、象のお尻から口に向かって、ニュルニュルニュル〜」
おおお!
角田のこのアイデアに会場は一斉に歓声が上がった。こりゃ行ける。
そうか、そのためのウナギだったのか!
つまり「象=大きい」が成り立つ時、「象>人間」と言う不等式が成り立ち、この不等式の左右に「肛門」を代入してやると、「象のアナル>人間のアナル」と言う不等式も成り立つのだ。
さらに「谷村新司の友人の肛門>電池」が成り立つ場合、「電池>ウナギ」も成り立つ事によって「谷村新司の友人の肛門>ウナギ」=「人間のアナル>ウナギ」が成り立つ。
(少し横道の逸れるが
「谷村新司の友人=サイボーグ」が成り立つのだから「谷村新司の友人の肛門=電気ウナギ」が成り立つ場合、「谷村新司の友人のお尻に尻尾が生える=彼女ドン引き」も成立するが、これは蛇足といったところか?)
よって「象のアナル>人間のアナル>電池>ウナギ」である為、「象のアナル>ウナギ」になるのだ。
そして「ローション=ウナギのヌルヌル」も成り立つため。
先ほどの『同人誌の理論』をここで使い「肛門<ポコチン=痛い痛い!」の時にローションを代入すると「肛門<ポコチンローション=ああああん、ダニエル!」と変換できるため、「象の肛門>ポコチンローション=ダニエルのじゃ物足りない」となる。
つまり、「象の肛門>ウナギ=ダニエルのじゃ物足りない」が成立する為、ウナギは象の肛門をニュルニュルニュル〜なのである。
そして役立たずのレッテルを貼られたダニエルは、今宵一人、カプセルホテルの枕を濡らすのである。
(ここまでで物理の説明は終わりです)
だからウナギを使う。理にかなっている。
「つまり、ウナギをチョココロネのコロネにしようと言うのだね?」
どこかの大学の教授が言った。「グレイト」と角田はその教授を指差して言った。教授は褒められて「テヘヘ」と頬を赤くした。
さて、原理がわかれば善は急げである。なぜなら、この計画はどんなに急いでも二日かかるのだ。
まず、象が何かを食べる。それがお腹の中でローマになる。ここで一日。
便秘気味ならローマになるまで二日は見なければいけない。
「もう、どうにもこうにも……」ってあたまを抱えるほどの糞詰まりなら一週間の覚悟がいる。なぜなら「象の肛門>人間の肛門」である為、この場合『いちじく浣腸は無意味』と言う解が成立するからだ。
そして、象のお尻からコンニチワして来たそのローマをウナギに持たせる。
うなぎを象のお尻から入れて口から出てくるのに、これまた一日は見ないといけない。
最低二日の間、世界が平和である保証などどこにもないのだ。
と言うわけで実験はすぐに実行される事になった。
しかし、この世紀の大実験を行う前に、やらなければいけない大切な事が一つあった。
「それはなんだ?」
教授たちの質問に角田は答える。
「象がちゃんとお尻から幸せを出すのかを証明しないといけません」
「おおおおおお!」と再び歓声が沸いた。
確かにそうであった。盲点だった。
お尻からウンコを入れたら、食べ物に戻るのだろうか? と言う話ばかりをしていたが、冷静になれば、そもそも口から入れた食べ物が本当にちゃんとお尻からローマになる保証など、この世界のどこにもないのだ。
まずこの確認に一日を要することになった。
今回は近所の動物園にいた象、花子に協力をしてもらう事になった。花子さん、よろしくお願いします。
まず、象のお口にジャガイモを入れる。
翌日にこれウンコになって出て来たら、この実験はまず成功確定である。しかし、出なかったら、これから先の全ての計画がご破算になる。
食べたものがウンコにならないが発見されたら、逆に世紀の大発見でもあった。しかし、それではこれから男たちが証明したいことができなくなってしまうのだ!
世界の知の巨人が固唾を飲んで、花子のアナルを凝視した。
出た。
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