人魚の生首
たんころぶ
人魚の生首
人が生首を膝に抱え、防波堤に座っている。空は曇り、潮風が強く吹いている。
生首が話し始める。
「実はね、びっくりするかもだけど、私、こうなる前は人魚だったんだよ。」
人魚ってこの辺の昔話の?食べたら死ななくなるっていう?
「そう、たくさんの人に食べられてね、首から上しか残らなかった。これじゃ人魚とはいえないでしょ?魚の部分が無くなっちゃってるんだから。」
…………。
「……まあ、でも。食べられるときは麻酔を打たれてたからそんなに痛くはなかったし、正直もうあまり覚えていないから、平気なんだけど。……それでね、あなたに頼みたいことがあって。」
私にできることなら。
「ありがとう。私ってほら、生首だから。いつもあなたに運んでもらってるでしょ?そう、それでね……これからも、貴方に抱えられて、色んなところに行きたいなって。」
頼みたいのってそんなこと?今までと変わらない。
「あなたは優しいね。」
私は全然優しくなんてないよ。……例えば、もし貴方が砂漠に行ってみたいって言うなら、私は暑いところ苦手だけど我慢するよ。貴方が貴方を食べた奴らを苦しませろー!って言うなら刺股とか持って苦しめに行くよ。だけどそれは、私が優しいからじゃなくて……なんだろう……。貴方が笑えるようなら、この世界も良いもんじゃんって思えるから。だから、自分のためだよ。
……ちょっと、なんで笑ってるの?なんで頭を擦り付けてくるの?どういう意思表示なの、ねえ……
生首の楽しげな笑い声が響いている。
人魚の生首 たんころぶ @tannkorobu
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