賊と散った華

 ナキアが死んで、賊が死んで、そのうちきっと、私が死ぬ。甲板の真ん中で星空を眺めていた。悔しくてルイスに八つ当たりしたほどの星空も、一人で眺めていればただ虚しいだけだった。


「私はどこで、間違えたのだろう」


 痛みなど、疾うになかった。全く痛くない。ただ毒のせいか、呼吸が酷く苦しくて、ひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返す。私はそれを、「ルイスに冷たい言葉をかけられる胸の痛みに比べたら、なんてことない」と言い聞かせながら何とか意識を保っていた。

 だが、もう会えないかもしれないと思うと、涙が止まらない。

 ルイスに、ルイスに会いたい――――――――。

 旅の中で目にしたいくつもの表情が脳裏を過り、その度に、涙が込み上げてしまう。

 ルイスは今、どこにいるだろうか。怪我はしていないだろうか。ちゃんと、生きているだろうか。

 ――――もう、会えないのだろうか。

 それなら、喧嘩別れなんてしなければ良かった。私はただ、ルイスに自分の身体を大切にしてほしかっただけなのに、少々険悪な別れ方をしてしまったな………………。


 ぼやけた視界は直に闇に包まれる。もう、波の音も聞こえないほどに、意識が遠退いていた。

 船上には賊の死体と、血液でつけられた足跡が花のように咲いている。これが本物の花束だったなら。私は彼に伝えていただろうに。


「あい……、し、てる………………」


「好きだ」と伝えたことは何度もあった。だが、「愛してる」だけはどうしてか気恥ずかしくて言えなかった。それももう、もったいぶる必要はない。この思いが、私と共に消えてしまうのなら、伝えておけば良かった。

 ルイスの声が聞こえない。

 ルイスの表情が見えない。

 ルイスの温もりが感じられない。

 ルイスに会えない。


 あぁ、なんて寂しいのだろう。

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ラピスラズリの魔法 弥生 菜未 @3356280

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