プレイorデーター

いつの間にか空間は、元通りのオープン・バーになっており、サイクロプスとハーピィが時間を取り戻すかのようにこちらを見てくる。


二体の前には、ひざまずいたリザードマンとその姿を見下げる小悪魔。


敗北といった、ひりつく空気感を漂わせながらも気を緩ませるジェリービーンズの甘い香り。


「スキル“トリックオアトリート”。“竜の瞳”or“お前の肝臓”」


小悪魔は、リザードマンに向かって問いかけると、重低音と共に仮面が出現する。


【プレ・デター】


仮面の一つはリザードマンの顔へと現れ、もうひとつは小悪魔の手へと発現する。


小悪魔は手に持った仮面を顔にかざすと“竜の瞳”と呟く。


揺らめくリザードマンの仮面。空間の震え、あるいは魂の一部がリザードマンから抜け出そうとしているかのようにも見える。


その震えが収まるとお互いの仮面がカランと地面に落ちる。


小悪魔の目に“竜の瞳”が刻まれる。


それと同時にリザードマンの目からは光が消えた。


「“トリックオアトリート”で強制した二択のうち、どちらか一方は必ず叶う。そういう風にできている」


小悪魔が語り出す。


「じゃあ、逆に相手が選択肢を叶えられない場合はどうなるのか?」


「………」


「その場合は、相手がこちらに対して叶えられる要求の方を強制的に叶えさせる事ができるようになるんだ。」


敗北したリザードマンは一切口を挟む事なく、ただただ投げかけられる言葉を浴び続ける。


「そういう意味では、相手に無理難題を吹っかければ、スキルを発動した瞬間から絶対勝利を掴むことができるスキルとも言えるよな」


並べた言葉には、リザードマンに対する同情の気持ちが込められていた。


脳裏によぎるのは、ハロウィンコスプレをしたロリ神の愛らしい笑み。


つくづく俺の事、大好きだなと小悪魔は思う。


スキルの開示をしているのと同時に、小悪魔はスキル“竜の眼”を使用する。


その目がキラキラとしたあわ燐光りんこうを放ち、収まると小悪魔はがっくりと肩を落とした。


「あー、やっぱり。そんな先が見える目ではないのか……」


「ふぅ…」と短いため息をひとつ。


「……まあ、そうだよな。今の状況が見えていたなら、俺と戦う前にリザードマンのジジイは逃げたりするだろうし」


ぶつぶつと思ったことを1人納得しごちる。


スキル【竜の眼】


〜スキル発動中、見ている対象のすこし先の未来を見る事ができる〜


という能力だ。


だから、リザードマンは小悪魔の“ディメンションオペレート”で発現した無限の手から繰り出される攻撃を避けてみせた。


自分自身に降りかかる厄災やくさいを予知したり、ずっと先の未来が見えるなどの占いのような能力ではないのだ。


そんな都合のいい代物しろものではないだろうなと薄々は感じてはいたものの。


どうしても、“あの2人”との未来を見てみたくて仕方がなかったのだ……



「名は?………名はなんという」


物思いに更けていると、ずっと黙り続けていたリザードマンがぼそりと口を開く。


「え?」


「貴様ほどの強者が名を名乗っておらん訳がなかろう」


小悪魔は一瞬の逡巡しゅんじゅんの後に、


「ジャック……ジャック=オランタン」


「………ジャック、覚えておこう。ワシを倒した強き者」


ジャックは顎に手をやってすこし考える仕草しぐさを取ると、


「………いや、俺はこの世界では弱者だよ」


「………」


ジャックの発言にリザードマンは目を丸くする。


「あんたの言う通り、スキルを過信した戦いをしただけ。まあ、だから負けないんだけどね」


そんなジャックの発言に馬鹿らしくなってリザードマンは滑稽こっけいに鼻で笑う。


「スキルを発動しなければ、魔力がないから魔法も使えない。スキルは、扱えてもあんたみたいな実力者相手だと場合によっては負ける可能性もある」


「故に“特異スキル”を片っ端から奪っておるんじゃな」


「スキルは、魔法というより経験や体質に近い。先天的な身体の特徴、あるいは体に馴染むものだから魔力、関係ないからね」


もう一度、“竜の眼”を発動。しかし、結果はさっきと変わらないままうつむくだけ。


「なぜ、そこまで強さを求めておる?」


リザードマンはジャックに問いかける。


「俺は“ネーム”だよ?それが意味することは分かるだろ?」


「ワシが聞きたいのは魔王になった先の事。魔王になって何がしたい……何を望む」


ジャックは見上げてくるリザードマンに対して笑みを浮かべ


「いまは勇者に並び立つ存在になる事、かな」


自信満々に答える。しかし、リザードマンは


「たったそれだけか?魔王になるということは、この世界の覇者となる事と同義なのだぞ。他にもっと欲はないのか?」


しつこく問いかけてくるリザードマンの熱量に困惑しながら、腕を組み頭をねらせるも、


「え?ん〜〜、……ないな」


「………そうか」


リザードマンは見ていた。


問いかけられた時、ジャックの目は揺らいでいた。


それは、つたなく、それでいて淡いこころざしや迷いに見えた。


その目を見逃さなかったリザードマンは、ぼそりと


「……そうか、それじゃお主は魔王にはなれんよ」


「ん?」


怪訝けげんな顔をリザードマンに向ける。


「気にするな敗北者の戯言ざれごとじゃよ」


ただ静かに冷静に自身の負けを噛み締めるかのように俯くリザードマン。


「……爺さん負けたのか?」


そんなリザードマンにサイクロプスは声を震わせながら聞いてくる。


「ゴフッ……完膚かんぷなきまでに、な。」


「血の気の多い魔物に言ってもどうかと思うけど。抵抗しない方が楽かもよ?」


ジャックは、サイクロプスに投げかけるように言う。


しかし、


「馬鹿か!俺は戦うぜ!!」


首をコキコキと鳴らしながらこちらへ近づいてくるサイクロプスを見て「はぁ……」と重いため息をひとつ。


そんな時、


「ゴボッ!!」


「!?」


いきなりの吐血とけつ……


目の前に立っていたサイクロプスの口から血が流れ出る。


「馬鹿はお前だ。短気で愚鈍ぐどんなサイクロプス」


胸に穴を開けられたサイクロプスが力無く地面に崩れ落ちた。


「この愚鈍が楯突たてついたこと、大変失礼をいたしました。我がキング」


その背には、炎の翼で口元を隠しながら不敵ふてきに笑うハーピィの姿があった。

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ハロウィン転生〜なぜか俺だけが魔王側で、勇者になった幼なじみ2人に倒される運命を背負う事になったから、ひとまずスキル“トリックオアトリート”で悪戯無双する。ショタジャックオランタンは異世界で笑う〜 @Blueclown

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