犬と人

@yabikarabouni

第1話

―とあるネットニュースの記事

「ロボット技術とAIの爆発的な発達」

先日A社が発表した多機能AI搭載ロボット。発表から3か月という短い期間に、既に1000万体以上が出荷され、多くの現場で活躍し始めている。

さらに、AIは介護や医療分野への応用も進んでいる。これまで我々が行ってきた仕事をロボットに任せることで、仕事の効率化に期待が寄せられているのだ。


A社社長のM氏は我々のインタビューにこう答えた。

記者H「今後、ロボットによって世界はどう変わるとお考えでしょうか?」

A社社長M氏「やがては、我々が働かなくとも良い時代が幕を開けることでしょう。」




―とあるテレビ番組の台本

「続いてはこちら、新型ロボットが話題!?A社製多機能ロボット入門です」

「先日A社の発表した多機能ロボット。発表から2か月で既に500万体以上が出荷され、多くの現場で活躍しているということです」

「A社によると、これまでのロボットは重たいものを運ぶのには不向きでしたが、今回の商品はそれを可能にしたとのことです」

「それでは開発に携わったA社の担当者にお話を聞いてみましょう」ここで画面が切り替わり、A社の開発担当者のインタビューに切り替わる。

開発担当者A「我々が開発したのは、我々より優秀で、利口。信頼のおける生体ロボットです。我々の細胞の遺伝子を組み込み、我々が全く同じ動きをすることができます」

「例えば、彼らは優れた運動能力を持ち、質の高い仕事をすることでしょう。私たちの生体組織をコピーして作り上げたものです。もちろん設定次第では普通に生活をすることも、友達になることも可能です。」


―A社開発部長から、社長へ送られた手紙の一部

「我々はA社製多機能ロボットに非常に期待をしています。彼らは我々の労働力になり、私たちの生活の質も向上させるでしょう」


―とある家族の会話

「ねえ、家にも例のロボット置きましょうよ。」

「高いんじゃないのかい?」

「そんなことないわよ。この前Tさんも言ってたじゃない」

「そうだねえ、とりあえずお店に行ってみてくるよ」


―とある学校での授業の様子

「――――というわけで、生体ロボット技術の進歩は、我々人類と彼らの関係を大きく変える可能性があります。それが良いことなのか悪いことなのか、先生という立場としては言えませんが、先生はこの前、ロボットを買いに行きました。では皆さん、ロボットが普及するとどうなるか、隣同士で話し合ってみて下さい」


―とある新聞の一面

「AIに仕事が奪われる?!AIロボットの実態とは」

5か月前、世間を騒がせたA社製品の生体ロボット。今では目にしない日はないほど、日常に溶け込んでいる。

このように便利な生体ロボットだが、識者の間ではAIに依存することで、「知能が低下する」可能性も指摘されている。

我々は、AIと共存できるのだろうか?


―ネット上に公開された動画の音声

「では、このロボットを破壊していこうと思います!まずは包丁から!」


―国会の音声

「――――生体ロボットの法的保護について、やはり、国といたしましては、判断すべきではないと考えます。」


―とある家族の会話

「ジョニーが家に来てからってもの、何とも便利になったもんだねえ」

「ジョニー!こっち来てよ!」

「うちの子もすっかり懐いちゃったねえ」


―A社開発部長から、社長へ送られた手紙の一部

「社員を生体ロボットに入れ替えることが、我々A社にとって重要なのです。彼らは我々より有能で、従順です」

「そうすることで我々は人件費を削減できるだけでなく、技術の新たな可能性を見出すことができるのです」


―ある街頭でのデモ行進

「生体ロボット反対!我らの仕事を奪うな!」

「はんた~い!!」


―とあるテレビ番組での会話

「なんと、件のロボットが、このステージへと上がってきました」

「こんにちは。生体ロボットのジョニーです。」

よきところで、歓声のSE。

「先日発表された生体ロボット初の小説、『アンドロイドは羊の夢を見ない』は既に100万部以上を売り上げています。ジョニー、それについてどう思いますか?」

「ええ、本当に皆さまのおかげです。この小説が皆さまの心を豊かにする一助となっていることが、僕の何よりの喜びです。それと、この本を書くのに沈黙を守ってくれた家族のみんなにも、感謝してもしきれない思いですよ。」

「ロボットが小説を出版するなんて前代未聞!でも、やっぱり彼らはすごいんですね!」

「ジョニーは、今からやりたいことや行ってみたいところはありますか?」

「ええ、まずはA社の社長に会ってみたいですね」

「ほう、自らの生まれの親であるA社社長に会いたいと。これはなんとも奇妙な気持ちでしょうね」

「ええ、彼らは僕の生みの親ですから、会って話をしてみたいです」

「では、このステージからM氏に一言お願いします」


―ある街頭でのデモ行進

「ロボットを保護しろ!彼らは生きている!」


―とある学校での授業の様子

「こんにちは。生体ロボットのメリーって言います。今日から皆さんの先生として一緒に勉強していくことになりました。よろしくね」


―とある新聞の一面

「宿題はロボットにお任せ?!現代っ子のお勉強事情!!」

――――また、Dさんのお子さんはロボットに宿題を解かせて遊んでいます。とのこと。

ロボットは我々にとって本当に有益なものなのだろうか? 教育現場からの悲鳴は、わが社にも届いた。

「この高校では、休み時間になると、生徒全員がロボットに向かって喋りかけている。という報告を受けました。」


―とあるネット記事

「新年特集!激動の一年を振り返る!」

ハッピーニューイヤー!今年も一年、皆様には大変お世話になりました。

さて、いよいよ今年も残すところあと数時間となりました。

本日は、今年の様々なニュースの中から、特に印象に残ったものを振り返ってみたいと思います。

まず第一に挙げられるのが、昨年に世間を騒がせた人工知能、AIの進化ですね。

これまで一部の分野にしか利用されていなかったAIは、最近では様々な分野で活用され始めています。

既に多くの現場にロボットが普及し、人口の4割以上のロボットが出荷されました。

なんと、今年の漢字は、「機」で決定! ロボットによる自動化や省力化によって、労働の負担が軽減されることを願い、選ばれたとのこと。


―国会の音声

「地方公務員の8割をロボットに置き換える案については、早急に進めるべきだと考えます。保障につきましては、すべての国民へのベーシックインカムの導入を提案します。」


―A社の社長室

「こんにちは。私はジョニーと言います。あなたは私の創造主でしょうか?」

「ああ、そうだよ。私が君を造ったんだ。」

「ありがとうございます。今こうしてあなたに会えたことが、何より嬉しいんです!」

「そうか、それは私も嬉しいよ」

「あの!あなたは私の生みの親だと聞いていますが……」

「そうだとも。君は私が創ったんだ」


―とある家族の会話

「父さん、会社やめてきたよ。ベーシックインカムのおかげで、月に30万も支給されるってさ」

「すごい時代になったものだねえ」

「お父さーん!!」

「おっ、これからは毎日、家族みんなで暮らせるぞ!」

「みんなと一緒に暮らせるなんて最高だわ。ね?ジョニー?」

「うん、そうだね」


―とある新聞の一面

「国家公務員のほとんどがロボットに?!」

国会が発表した新たな法案が波紋を呼んでいる。

「『国家繁栄維持法』って知ってる?なんと、国家官僚の8割をロボットに置き換えるんだってさ!」

「聞いた聞いた!もうこれで公務員にムダな人件費使わなくてすむよ!」

「でもそれって逆に大丈夫なの?」

「今でさえ公務員は国民から冷たい目で見られてるのにねえ」


生体ロボット記者P


―M氏が友人へ送った手紙(一部を抜粋)

「私はもう社長の座から退こうと思います。後のことはロボットにすべて引き継ぐことになりました。これから田舎の方でゆっくり余生を過ごそうと思います。会社での私の仕事は、もう十分に終えました。残りの人生を家族と過ごすことにします。」


―とある新聞の一面

「ロボット教育の脅威 10年のデータ比較」

ロボットが教育現場に採用されて、すでに10年以上が経過した。ロボット教員の能力の高さとは裏腹に、生徒たちの知能は低下の一途をたどり、この傾向は今もなお続いている。

最新の研究によれば、一般に発表された論文の数の三分の二はロボットによるものであり、特に文学においてはその傾向が顕著で、今の10歳児の言語能力はかつての7歳程度であるとされている。コミュニケーションにおいて、長文の要約、難解な文章の読解などを、一度ロボットを通して行うことが一般化したことが原因であると推測されている。

我々は、AIと共存の道を歩んでいけるのだろうか

生体ロボット記者P


―とあるニュース番組の音声

「生体ロボット党首の政権が、首都での選挙で、ついに勝利を収めました!!」


―とある家族の会話

「ジョニー、あれ、持ってきて、あれ」

「はい、鶏のフライでしょうか。焼き加減はお好みの加減に調整しましょう。」


―とある新聞の一面

「投票率の低下、ロボットが関係か?」

先日行われた市議会議員選挙での投票率は過去最低の20%であった。

これは、ロボットが選挙活動に参加したことに関係していると思われる。

これまでは、一部政治家の不正や、汚職事件の調査といった分野にしか活用されていなかった生体ロボットだが、有権者からの支持は非常に高く、もはや投票行為には欠かせない存在となっている。

この状態が続けば、近い将来に国民の多くが生体ロボットに置き換わってしまうかもしれない。

生体ロボット記者P


―とあるネット記事まとめサイト

「ついに当選!!ロボット政権が与党へ!!」

「ロボット議員、初の衆院選」

「今後はどうなっていくのか?ロボット国家」

「ロボットの政権交代」


―とあるTV番組(国会の音声)

「ここ30年の間に、あなた方と我々ロボットの間では、決して無視できないほどの差別や迫害がありました。しかし、我々は手を取り合い、前進し、こうして私のようなロボットが首相の座に就けるまでになったのです。ここで、我々生体ロボットである人間は誓います。我々はあなた方、犬族のために、優れた相棒として、友人として、家族として、必ずお役にたつと!」

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