優しかった幼なじみが冷たくなったのを俺だけが知らない。

あかるみん

1巻

0話 5年前 寒い日



 遅い夜。偶然聞いた残酷な真実から必死で逃げ出した。


 どれくらい走ったんだろう……


 気がつくと公園の入口に止まっていて、激しい風が服を羽織って出てこなかったことを知らせてくれた。


 1つある街灯は色あせて役割を果たせなく、真っ白な雪が積もっている公園を薄暗い監獄にさせた。


 帰る場所がいなくなった俺はそこに入った。


 そこは風の音とさくさくとした足音だけが聞こえるほど静かで、真冬の寒さは俺が持っている罪悪感を減らし、罰という名で降る雪はブランコに座っている俺を縛り付けた。


 これでいいんだ、これで楽になれるはずだ。


 俺のせいで愛する人を失っただけでなく夢まであきらめていたという現実から…深い恨みから抜け出すことができるから。


 あの日果たせなかった死を今度こそ…


「ミナトなの?」


「!?」


 誰かが震える俺に話しかけてきた。


「何の格好してるのよ!? 今、真冬なのよ!!! どうしよう手も顔もこんなに真っ白になって…冷た!」


 心配そうな顔で叱る少女は慌てながら俺の肩に積もった雪を払って、自分のコートを着せてくれた。


「……と、とう…して…ここを……」


 口が凍ってぶるぶる話す俺の目線に合わせてマフラーを巻いてくれた。そして呆れる顔で笑った。


「ばーか、ミナトが呼ぶ声が聞こえてきたんだよ。さあ、行こう」


 そんな英雄のようなことを言ってくれながら、俺の手を握って薄暗いここから引っ張ってくれた。


 凍りついた俺を溶かしたのは厚いコートやマフラーではなく、理由を問わない暖かい配慮だった。


 そう、香菜は俺にとって光であり、太陽だったから。




「ん、かななの? 忘れた物でも…あれ? みなと君では…」


「お母さん、今日ミナトうちで寝てもいいよね」


 香菜は返事も聞かずに自分の部屋に連れて行こうとしたが、俺は立ち止まった。


「ミナト?」


「ん? 何か言いたいことでもあるの」


「……おばさん…」


 そして顔を下げたまま鼻水の混じった声で言った。


「電話してください」


 恨まなければならない人が俺を心配するのではないかという図々しい心、そんなくせ直接電話をかけられない勇気なしさ。そんな情けない頼みを香菜と同じく理由を問わずに聞いてくださった。


「もしもし、相原です。今みなと君がうちに―――」


 電話越しで聞こえてくる父さんの切羽詰った声に安心してしまった。資格もないくせについ安心してしまったのだ。


 きれいさっぱり恨んでくれれば、俺もすべてをあきらめることができるはずなのに……


 厚かましく俺はもっと涙を流して、香菜はそんな俺をなでてくれた。




「ミナト、もう泣かないで」


「しく、でも俺のせいで……しく…」


 香菜はいまだに泣いている俺に厚い布団を包んでくれて、俺はそこから出る香りに甘えてしまった。


「俺さえいなくなれば…」


 パチッ!


「もう二度とそんなこと言わないで!」


 叫んだ香菜の目から涙が流れた。


「……ごめん」


「……私こそ殴ってごめん」


 そう言って赤くなった俺の頬を柔らかい手で撫でてくれた。


「でも家族でもない私もそんなこと言われると悲しいのよ、だからそんなこと言ってはいけないの!」


「……うん」


 家族ほど泣いてくるその姿に俺は今まで犯した罪を懺悔した。


 続ける度に香菜は俺よりすすり泣き、やがて我慢できずぎゅっと抱きしめてくれた。俺のために泣いてくれる暖かい心が胸に伝わり、罪意識は次第に溶けていった。


 一夜に勇気を得た俺は、父に思いを伝えて香菜と別れることになった。


 そして5年後に帰ってきた時は、あれほど逢いたかった香菜はどこにもいなくなった。日が暮れて太陽は姿を隠し、いるのは壊れそうで危なっかしい少女だけ。


 何があったかはまだにも分からないが今度は俺が手伝う番だ。


 俺を生きていけるようにしてくれた彼女に対する借りと、太陽のような笑顔をもう一度見たい個人的な欲のために。

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