異界英雄目録カールス

青階透

第一章 始まりの戦争 〜beginning of war~

第1話 英雄の生まれない時代

 母さんが昔、話してくれた英雄の話。

 悪い鬼王を倒して、世界を救った。誰もが彼を英雄と称えている。


『ママ、その英雄はどうなっちゃったの?』


『きっと天国でみんなを見守ってるわ。なんせ彼は英雄なんだもの』


『僕もこの人みたいな英雄になれるかな』


『成れるわ。アナタは父さんの子供なんだもの』


 昔話を思い出しながら、この俺、カールス・メセルナは母の墓に水をかける。

 母さんは一年前に亡くなった。俺が記憶も曖昧な時、父は蒸発。そこから一人で育ててくれた。でも、長年の無理が集って母は病に犯された。


「行ってくるよ、母さん」


 この国、メルセナ王国は徴兵制のある国。十二歳になると男児は、各地の中等教育を兼ねた軍学校に入学させられる。一定の納税額を納めている一家の子はその義務を免れるが、それは一部の富豪や貴族でなければ不可能。

 俺は今日から入学なのだ


 『英雄』の生まれぬ時代


 そう言われる今の時代。かつての魔法や剣の個人の戦いはもうない。各国が自国を守るために軍を作り、お互いに牽制し合っている。

 大陸間連邦政府という世界を束ねる組織が存在して、形だけの平和で世界は染まっている。


「ずいぶん遅かったな、カールス。このままじゃ入学初日に大遅刻だ」


「すまんな、ロイヤル。少し考え事をしていた」


 俺を霊園の外で待っていたのは、ロイヤル・メイガス。俺の幼馴染のひとりだ。普段の不良のような見た目は鳴りを潜めて、今は入学のためにスーツをしっかりと着込んでいる。そういう俺も流石の今日はスーツだ。


「ロイヤル、お前のスーツ姿、似合わねな。むしろ気持ち悪い。うぇえ」


「そういうお前も大概だぜ。不釣り合いのコスプレみたいで不気味だ」


 吐いたフリをすると、ロイヤルに反撃された。まぁ、普段からお互いに罵り合っている仲だ。気にしていない。


「二人とも早くしなさい!」


 こんな意味のないやりとりをしていると、もう一人の幼馴染のアリス・スリアが声を張りながらこちらにやって来た。どうやら、待たされすぎて怒っているみたいだ。


「悪いな。アリスいま行く」


 ここはお互いに引かないとアリスに鉄拳制裁されかねない。それだけは勘弁だ。反撃も難しい。ロイヤルが謝って、俺は隣で手を合わせるだけ。これでいいんだ、俺たちの関係なんざは。


 言い忘れていた。

 これは俺がこの時代で英雄になるまでの長い長い物語だ。


 

 あとがき


 新作です。

 これから異世界ファンタジーを描こうと思います。結構壮大な物語構造なので、お付き合いください。

 なろう版もその内、統合版で数話をまとめた形で投稿します。

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