最終話
一にして全、全にして一。
唐突にそんな言葉が浮かんだところで、物語は終焉へと突き進むらしい。
起承転結でいうところの結に当たる地点。だからっていって、急激に方向転換させる必要はないだろうに。このままでは禍々しい神様が顕現し、ラブストーリーだったものが「コズミックホラーは突然に」へ変わってしまう。
物語が何者かによって進行していると気が付いたはいいものの、私としては愛が知りたいのであって、物語がどう着陸しようといいのだけども、できうることなら、怖くない方向性で行ってほしい。
例えば、佐藤君が戻ってきて、私の目の前で土下座するなんてどうだろう。私は怒ってはないんだけども、先の一件を謝罪するのである。いや、別にそんなことをされたって嬉しくもなんともないんだけどね?
先ほどの言葉に戻ろう。
全にして一、一にして全。ちょっと違うかもしれないけれど、大きく言えば一緒だ。もにゃもにゃしたような存在を考える必要はまったくない。
だって、どっちもフラクタル的だから。
一部=全部。
呆れるくらい突如現れた言葉は、意外にもフラクタル・ラブに関係している。でも、これもやっぱり題名の前半にしか関与していない。
そこにいる誰かさんよ、ラブはどうしたラブは。
いるかもわからない作者へ訴えかけたところで届くわけがなかった。田中先生によれば、高次の存在が低次の存在を見ることは可能だけど、その逆はできないらしい。アリは人の存在を認識できない。平面に生きる彼らは高さという概念を知ることはない。
まあでも、こうして文字となって浮かび上がっていることを考えるに、向こうにあるものが本という形式をとっているかはともかく、この思いもまた独白という形で制作者にも伝わっていてほしいものだ。
あるいは、その高次の存在とやらは製作者ではなく読者であり、私が愛を見つけるのを固唾を飲んで待っているのかもしれない。
愛。
愛のかけらみたいなのは佐藤君の一件でほのかに感じた。そのかけらは砕けて散っちゃったけれども、あれはたぶん「愛」だったに違いない。
だとしたら。
フラクタル・ラブというのは、そんな愛を小さくあるいは大きくしたようなものと言えるのかもしれない。愛を小さくしたら見えなくなってどこかに行ってしまいそうだから、とりあえず大きくしてみよう。
大きく……。
空を見上げてみたけれど、広がっているのは青空ばかり。巨人とやらは少なくともこの日本にはいないらしい。
こうしている間も、本は健気にも叙述を続け、私と同じことを本の中の主人公もやっているらしい。
「そうか――」
物語の中の登場人物からすれば、私は大きな存在といえる。彼女(物語の主人公のことだ)は失礼ながら私からすれば地べたを這うアリと大差はない。
私がこうして見ているように、私もまた何者かに見つめられている。
そういえば、ここでフラクタル・ラブを読み始めたあの日、私は何者かの視線を感じた。今思えば視線は上空から降り注いできていた気がしてならない。そして、佐藤君は仙人でなければフライングヒューマノイドでもなかった。
では、誰が私のことを見ていたのでしょう?
私は本の表紙に描かれている少女を撫でる。
「私を見ている貴女は愛しているかしら」
この物語を作り出しやがったヤツへ呼びかけてみる。返答は期待していない。ここまでを思い返せば、ヤツがどう思っているかなんて一目同然。
フラクタる失恋の味を見させられる私たちの身にもなってもらいたいものだ。
絶対零度に似た静けさと冷たさの中で、私は大きな愛を噛みしめながら世界の終わりみたいに白い空を見上げる。
これを書いている私へと、あるいはこんなものを読まされているであろう私へと、この愛が届くようにと祈りながら。
フラクタル・ラブ 藤原くう @erevestakiba
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