緑青(ろくしょう)のかなた
文重
緑青(ろくしょう)のかなた
色づき始めた木々の合間に姿を現した建物は、さながら何かの宗教施設の様相を呈していた。青緑色の屋根が賢悟の心をざわつかせる。
一方的に別れを告げた麻紀を訝しく思い、賢悟は彼女の後をつけてきたのだった。特許出願を控えたこの大事な時期に、あの心優しい麻紀が理由も言わず俺にこんな仕打ちをするなんてと、賢悟は怒りと困惑がない混ざった感情を持て余していた。
ステンレスに錆が出にくいことは周知の事実だが、賢悟が開発したのは、緑青はもとより、もらい錆すら防ぐ究極のステンレス加工技術だった。設備投資のため融資の相談に赴いた信用金庫での交渉が不調に終わり、意気消沈していたところに訪ねてきたのが職員の麻紀だった。上司を必ず説得するからと励ましてくれる麻紀に賢悟はたちまち魅了された。
忍び込んだ建物の内部で賢悟が見たのは、整然と並ぶ自分の発明品の生産ラインだった。滲み出たわずかな錆が白銀の鋼(はがね)を緑青に変えていく――。
緑青(ろくしょう)のかなた 文重 @fumie0107
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます