緑青(ろくしょう)のかなた

文重

緑青(ろくしょう)のかなた

 色づき始めた木々の合間に姿を現した建物は、さながら何かの宗教施設の様相を呈していた。青緑色の屋根が賢悟の心をざわつかせる。


 一方的に別れを告げた麻紀を訝しく思い、賢悟は彼女の後をつけてきたのだった。特許出願を控えたこの大事な時期に、あの心優しい麻紀が理由も言わず俺にこんな仕打ちをするなんてと、賢悟は怒りと困惑がない混ざった感情を持て余していた。


 ステンレスに錆が出にくいことは周知の事実だが、賢悟が開発したのは、緑青はもとより、もらい錆すら防ぐ究極のステンレス加工技術だった。設備投資のため融資の相談に赴いた信用金庫での交渉が不調に終わり、意気消沈していたところに訪ねてきたのが職員の麻紀だった。上司を必ず説得するからと励ましてくれる麻紀に賢悟はたちまち魅了された。


 忍び込んだ建物の内部で賢悟が見たのは、整然と並ぶ自分の発明品の生産ラインだった。滲み出たわずかな錆が白銀の鋼(はがね)を緑青に変えていく――。

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緑青(ろくしょう)のかなた 文重 @fumie0107

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