第18話 いたずら好きの少女(水菜の追憶①)
西暦2969年…チェンと出会う10年ほど前、17歳だった水菜は旧ザビッツ帝国の名門校『ザビッツ高校』卒業を三ヶ月後に控えていた矢先、校長から呼び出しをくらっていた。
−ど、ど、ど、ど、どうしたんだろ!?心当たりがありすぎて、何が引っかかったのかが分からないわ!?
−第一候補はあれね、同級生に売ったテスト対策AIのプログラム、確かヤマが全部当たっちゃったのよね。あいつ、調子に乗って満点なんか取るなって言ったのに、目立ちやがって〜。
−それともあれかしら?放送委員の仕事、AIに任せて遊びに行ったのがバレたかしら?
−そ、それともロボットに作らせたデザートを勝手に食堂で売り捌いていたのが見つかって。。。?
水菜は頭を悩ませながら、なんて言い訳しようか考えながら校長室に向かった。
「マ、マチャコフ水菜です!失礼します!」
校長室に入ると、校長席には校長先生が座っていて、もう一人、穏やかそうな顔をした見た目はアラフィフとといった感じの男性がソファに座っていた。
目尻にちょっとした皺があるが、口元がキュッと閉まっていて、育ちの良さそうな紳士をイメージさせる。
−む、どういう状況だ!?まさか、このおじさん、キャンティーンのオーナー!?優しそうなおじさんだから、何とかなるかな!?
水菜は頭の中で、デザートの売り上げの分配の提案について頭を巡らし始めた。
「マチャコフくん、そんなところで立っていないで、とりあえず座りなさい。」
「あ、し、失礼します。」
水菜はテーブルを挟んで男の反対側にあるソファにちょこんと座る。
校長は自分の席の引き出しから紙のような見た目のタブレットを取り出す。水菜が生徒に売ったものだ。
「試験対策AIか。。。よくできている。」
ぎゃあああ、バレてる!!
水菜は頭を抱える。
「放送室の機器もいじられていたね。デザートを作る調理ロボット、それに、学生同士のマッチングアプリ…筆跡を真似てノートを取っているように見せる機械まで作ったのか…」
や、ヤバい。。。…筆跡を真似る機械「カキカキくん」の存在までバレているとは…
「あ、ああ、ええっと、ですね…」
水菜は冷や汗が止まらなかった。
これは、卒業間近で退学の危機か!?
「言い訳は結構。」
ハワヮヮ…水菜は青くなっていく。
「お金を稼いで遊びに使う。友達の恋愛を応援する。面倒臭いことはサボる。いかにも学生らしい欲望ですね。」
先ほどまで地蔵のように黙っていた紳士的な男性がいきなり喋り始めた。
なんだ、このおじさん。何のためにここにいるんだ?
「は、はは…お、仰る通り。わ、若気の至りと申しますか…ふ、普通の女子高生ならばありがち…ですよね?」
水菜は下を向きながら、チラリと校長に目を向ける。目は完全に泳いでいた。
「しかし、腑に落ちないこともありますなあ。」
校長が訝しげな表情を見せる。
「は、はあ…」
「こんな機械が作れるのに、君の成績はせいぜい上の下ぐらい。ザビッツ大学に合格できるギリギリの線、といった感じだよね。」
「は…い」
このピンチをどのように切り抜けようかという事だけしか頭になかったので、水菜は校長の話の意図が掴めなかった。
「こんな事ができるなら、君は間違いなくトップの成績であるべきじゃないか。」
「あ、い、いや、それは、こういう物を作ることと、趣味でできることは違いまして。」
「うん、でも、君が作った試験対策AIを使った山田くんは、今回のテストの成績が学年トップだったんだよ。今までは50番も入れなかったのにね。」
−山田の馬鹿〜〜。あれほど目立つなって言っておいたのに〜〜。馬鹿、馬鹿、馬鹿!
水菜は舌打ちをしそうになったのを止める。こうなったらあいつが女子トイレを盗撮しようとしていたのもバラしてやろうかな。
水菜は万策尽きて苦笑いをするしかなかった。
確かに、水菜にとって勉強は至極簡単な事で、その気になればいつでもトップを取ることができただろう。
しかし、水菜は自由気ままに生きていたかったため、イタズラ好きで目立つことはあっても、優秀で目立つことをしたくはなかった。
目立ってしまえば、いつかは父のように…水菜の心には、そういう気持ちがあった。
「…ここからは、私が話しましょうか。」
紳士的な男性が語り始める。
「は、はい!お願いします!」
校長はやけにこの男に気を使っているようだ。
「自己紹介がまだでしたね。私は、ロイドア連邦から来ました、ヒューズ・マルセヌと言います。ヒューズと呼んでください。所属はロイドア連邦政府、とでも言えばいいですかね。あなたの父とは、お友達でした。」
ロイドア連邦政府と聞いて、水菜は目を見開いた。
そして、深い闇を見据えるかのように鋭く彼の眼光を睨みつけ始めた。
第19話『スカウト(水菜の追憶②)』に続く。
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