第13話 真実のモアイ
「それで坊主、お前の名前は。」
ドーナツが尋ねる。
「あ、この子の名前はチェン・リーよ。」
水菜が答える。
「両親は何している。」
ドーナツが尋ねる。
「この子に両親はいないのよ!その話はタブーね!」
またしても水菜が答える。
「…お前、今何歳だ。」
ドーナツがまた尋ねる。
「この子は14歳よ。」
またまた水菜が答える。
「………全部主任が答えるのかよ!!」
たまらずドーナツは水菜に突っ込んだ。
「あの、もうさ、尋問は終わってるんじゃねえのか。」
ドーナツは呆れ顔だ。
「あ、いや、私もこれぐらいの事しか分からないわ。」
ドーナツはこれを聞いてこみかめをピクピクさせた。
「………オッケーだ!」
そう言うと、二人は再びチェンに向き合う。
「なんであんなところにいた。元々はどこに住んでいたんだ。」
またしてもドーナツが質問を始める。
「あまり一回で二つの質問をするのは賢くないわよ、ドーナツくん。」
「…この二つの質問は、根本的な部分で繋がるんじゃないのですか。」
「でも、答えの選択肢がもしそうでない場合は、二つの別々の質問を一気にされた事になるわ。」
「別にそれでいいじゃないですか。」
「いや、十四歳の子にとってはこれは混乱するわよ。その場合、各質問に対する答えは中途半端なものになるかもね。質問は一つずつがいいわ。」
「あ、いや、主任こそ、いつも嵐のように捲し立てるじゃないっすか!」
「あれは私が好き勝手に喋っているだけで、何かを意識しているわけじゃないわ。」
「そんな事言ったら、この場だって、別にそんなに一生懸命にならなきゃいけないわけじゃあないでしょ!?」
二人の会話はもはや漫才のようなテンポだった。いつも二人はこんな感じなのだろうか。この二人が主任と副主任とは、一体どんな研究所なのだろう。
「あの…」
チェンが答え始めると、二人は一斉に黙った。
「僕は元々、ボーンマロ―区に住んでいました。」
「ボーンマロ―区だって!?随分遠いところじゃないか。おりゃてっきり、近くに住んでたけど最近ホームレスになったのかと思っていたぜ。」
本当の事を喋って、チェンはしまったと思った。
確かに、子どものホームレスが何でわざわざ遠いところまで来てこんな辺鄙なところで寝ているんだという話だ。
この建物は、周りにはほとんど民家がない孤立した場所なので、ホームレスがいること自体が不自然なのだ。
「これは私もびっくりしたわ。私はどちらかというと、何であんなところで寝ていたのかの方が不思議だったけど。だって、ここまで来るのだって、結構歩くわよ。普通ホームレスなら、ゴミを漁れる街中にいるわよね。」
水菜は不思議そうにチェンの方へ顔を向ける。
「あ、あの、えっと…」
「あ!!ちょっと待ってね!」
水菜は思い出したように唐突に立ち上がる。
「え?あ!?ちょ、ちょっと!」
ドーナツが焦る。
「すぐ戻る~。」
ドーナツと二人きりになり、少しの間気まずい雰囲気になるが、ドーナツは、
「ほらよ、これ食べるか。美味いぞ。」
と自分のプレートにある大学芋を分けてくれた。
水菜は何やら手に物を持って帰って来た。
「ああ~~~~~、それは!!あの恐ろしいモアイ君ではないか!?」
ドーナツは目を見開いたと思ったら、豪快に顔をニヤケさせた。
「ふふふ、チェン坊主、これは驚くぞ~~。」
確かに水菜はモアイ像を手にしていた。これが何なのだろうか?
「まあ~、コンプラの問題でさ、こそこそやるのは良くないから、先に言うよ。」
水菜がモアイ像をチェンの目の前に置くと、モアイ像の目が赤く光った。
「これはね、嘘発見器なのです!名付けて『真実のモアイ』!モアイの目からスキャンビームが放たれて、随時チェン君の脈拍、目の動き、肌の動き、体温、そしてホルモンの状態から肌の様子まで細かく審査していてね、嘘をついた時が分かってしまうわけだわさ。」
「そうそう、特殊なトレーニングを積んでいる人間でなかったら、このモアイ君を騙すのは無理だ。まあ、世の中のカップルを全滅させる恐れがあるから、市販されてはいないけどな。」
ドーナツはそう言ってまたしても口元をニヤリとさせる。水菜はそれを白い目で見る。
チェンはいきなり緊張し始めた。
〔あまり緊張しないでください。〕
モアイ像が喋った!?
「そうそう、それでね、言語AIも搭載しているから喋るのよ、この子。凄いでしょ~。私が作ったのよ。あ、それでチェン君、さっき部屋の中で、私の胸、じろじろ見ていたでしょう。」
「え!?」
チェンはいきなりそんな事を言われて、パツパツのシャツを思い出して顔が赤くなっていくのを感じた。
「そ、そんな事、な、ないですよ!」
〔嘘つくな、このエロガキ。〕
モアイ像がまた喋る。エロガキって…
「はっはっは~、こりゃあ傑作だ!モアイ君にすげえ突っ込み入れられたぞ。」
ドーナツがゲラゲラと笑い始めた。
「坊主、ここ最近で一番笑かしてもらったぜ!」
チェンはバツが悪くなり、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「あ、ごめんごめん、チェン君。ちょっとからかっただけだからさ。とりあえず、嘘はつけないよって言いたかったの~。だから、都合の悪いことがあったら、黙っててもいいよ。その時は、答えられません、って言ってくれればいいから。」
水菜は両手を前に出してごめんなさいのポーズを取っていた。
「それじゃ、今度こそ、真剣に聞くね。君はなんで、あんなところにいたのかな?」
チェンはどう答えたらいいのか分からず、小さく唸った。
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