第14話 真実は誤魔化せません!?

チェンはどうしようか迷っていた。


果たして、喋ってもいいものだろうか…


いずれは喋ろうと思っているが、頭がおかしいと思われるのが関の山だと思っていた。マックミラーの一件があって以来、どうしてもこの話をして本気で信じてもらえる未来が見えない。


「あ、あの…この嘘発見器は、す、すごく優秀なんですか?」


チェンは目を泳がせている。


水菜とドーナツは顔を見合わせた。


「ええ、その通りよ。的中率は、分かっているだけなら今のところ100%ね。」


「そ、それは凄いですね…」


チェンはハハハと力なく笑う。


水菜とドーナツは、チェンが次に何を言うのか待っている。


「あ、あの…こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないんですけど、僕、夢の中で、未来の事が視えるんです。」


チェンは、モアイ像をちらりと見る。


〔おいおい、そりゃ凄えな、マジかよ〕


モアイ像は、この話を『真実』と受け取った。


水菜とドーナツは同時に眉間に眉を寄せる。


「あの、それで、ここに来たのは、夢の中で、水菜さんに出会ったから…ずっと探してて…」


モアイ像の反応がない。水菜はモアイ像の目がちゃんと光っているのか確認するが、何も問題はなさそうだった。


「バッテリーは、ちゃんとあるわね…」


水菜がボソリと呟く。


「その、そう、遠くない、多分、20年後かそこらの未来で、地球が丸焦げになっちゃうんだ。それで、この、水菜さんが、何かしてくれるって、夢の中でそうなってて。でも、夢は色んな可能性に分岐するようになっていて、それで、僕が水菜さんに伝えないとって…」


モアイ像からは相変わらず反応がない。嘘をついたことが疑われたら、即座に嘘をついたと言うように設計している。


「ちょ、ちょっと待って!思考が追いつかない。」


水菜はチェンを一先ず止めた。


「その前に、先ず、確認。」


水菜はモアイ像をドーナツの方へ向けた。


「ドーナツ君、最近職場の冷蔵庫に入っていた私のケーキ食べたでしょう。」


「な、なんでそれを!?あ、ああ、食べたよ。」


「それで、私のマカロンも食べたでしょ。」


「え!?そんなもの見てないですよ。」


「ああ~、もう!なんでもいいから嘘をついてよ!」


「ええ!?そういう事なの。」


〔鈍い男やな、こいつは〕


 モアイ像にまで突っ込まれてしまった。


「じゃあ、気を取り直してもう一回。ドーナツ君、君はボーンマロ―区出身ですか。」


「はい、その通りです。」


〔嘘つくな、このクズ!〕


「誰がクズだ!」


ドーナツはモアイ相手に怒り出した。


「……うーん、正常に機能してるっぽいわねえ。」


「なんか、変な幻覚でも見てるんじゃないのか。本人はそれを信じ切っているとか。おい坊主、お前、変な薬とか飲んでないだろうな。」


「ちょっとあんた、何てことを!」


水菜はデリカシーの欠片もないドーナツを鋭い目で睨みつけた。


チェンは俯いた。


「そういう薬に手を出してはいません…信じて、もらえなくても仕方がないです。実際に僕は精神科医のお医者さんに、頭がおかしいって書かれていました。」


そこまで言うと、チェンはマックミラーの事を思い出して涙を流し始めた。


「精神科医って…そんなお金誰が出すのよ…あなた、親はいないって。」


「いない…ようなものです。」


〔いや、本当はいるんじゃねえか。〕


モアイ像が突っ込む。


「はい、生きてはいます…少なくとも母親は。でも…」


水菜は呆れた顔をした。


「チェン少年、親がいるなら、親の所へ返すわよ。何であんな風にホームレスなんてやってたのよ。」


「お母さんは、僕なんかいらないって言ったんです!!それに、僕だって、あんなお母さんいらないんです!!僕はここで、水菜さんが人類を救うところを見守るんです!!」


急に興奮し始めてチェンは突っかかっていった。


ドーナツは突然立ち上がり、チェンの腕をまくったり、シャツの間から身体を覗いたりした。


「な、何するんですか!」


チェンがササっと身体を隠す。


「いやよ、虐待でも受けてんのかと思ってな。まあ、特にそういう傷跡はなさそうだったけど。」


「もうあんたって、本当にデリカシーの無いというか、もはや人間性さえもないっていうか。虫以下っていうか。」


「ちょ、主任、それは言い過ぎっすよ~。」


水菜は再びここでチェンに向き直るが、ここで少し考える。


―『真実のモアイ』くんは正常に機能している…じゃあ、何、さっきの話は本当だと言うの?


水菜はチェンがどんなに逆らっても親元に戻すことことが一番と考えていたが、少しだけ彼を試す事にした。


「ねえ、その、チェンくんの未来の夢の中で、私はどんな事をしていたの?」


チェンは思い出すような素振りを見せる。


「ええっとですね、なんか大きな、人の何倍もあるような水色の玉が三個あって、それで、何か実験していたのかな?」


水菜は目を細めて、チラリとドーナツを見る。ドーナツも、突然怪訝な表情を浮かべる。


その水色の玉は、水菜が開発した小型核融合エンジンだ。玉の中で何度も粒子を回して高速回転させ中心点でぶつけて核融合反応を生み出す、パワフルなエンジンだ。


極秘情報である。


しかも、三個目はつい最近出来ることになっていて、まだ完成してさえもいない。


―どうやって知り得た?


突然二人の雰囲気が変わった事で、チェンは急に不安になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る