第12話 焼肉定食を勝手に頼まれました
その日、夕方になっても水菜は帰ってこなかった。
流石に食堂券を使うのは遠慮していたが、冷蔵庫にある食べ物はあまり高級そうでない物を頂いた。
チェンは水菜が帰ってくるまでやる事も無かったので、大半の時間をホログラムテレビを観て過ごしていた。
テレビでは、あのミシェルを襲う事になっていた赤いバンの男たちが、殺人未遂の容疑で既に逮捕されていて、裁判に出頭するというところだったようだ。チェンが家を飛び出してから比較的すぐに捕まったらしい。しかも仲間内でのいざこざがあったということで、外部で被害者が出たわけではないようだ。
(良かった…結局ミシェルには何ら害がなかったんだ。)
チェンはホッと胸をなでおろした。
チェンは今度は部屋に置いてある本を読んでみたが、専門用語だらけで訳が分からなかった。
閉じてから筆者の名前を見ると、「シルフィ水菜.M」と書かれていた。
水菜は本も書いているのかとチェンは心底感心したが、難しそうな本の筆者が全て水菜だという事がわかって、むしろ戦慄を覚えた。
これ全部…?凄すぎる!?この人はもしかして、幾つもの専門分野を持っているのか?
この時代のレオナルド・ダ・ヴィンチの如く、水菜は複数の分野で超一流だったようだ。
チェンが本を棚に戻したぐらいの時に、水菜は帰ってきた。
「ごめ〜〜ん!宇宙コロニー設計が超超超楽しくなっちゃって〜。」
水菜は勢いよく部屋に入ってくると、白衣を脱ぎ棄てる。
「お腹空いちゃった~。ねえ、チェン君、晩御飯食べた?」
「い、いや、ま、まだです。」
改めて会うとまた緊張してしまう。それに…
白衣を脱いだ水菜のシャツがパツパツだ。こんなセクシーにボディラインを強調しなくても…
「何よ~、よそよそしいわね~。じゃあ、一緒にご飯食べに行きましょ!」
「あ、はい。」
チェンは顔を赤らめて返事をする。どうしてもパツパツの胸に目がいってしまう。
水菜はそれに気づく。
「あ、何を色気づいてるのよ~~!エロいわね~。」
「あ、あ、いや、水菜さんこそ、そ、そんなにシャツがパツパツで…な、なんか、目のやり場に困るんですけど。も、もっと、自粛した方がいいんじゃないですか。」
水菜は目を細める。
「なんか、私がセクシーなのは認めるけど、性肉欲モンスター女子みたいに見られるのは気に食わないわね~。特に、会うなりいきなり抱き着いてくる少年に言われたくはないわよね~。」
「あ、あ、あれは…」
チェンは真っ赤になる。
「あ、あははははは!面白い、少年!からかい甲斐があるわ!まあ、お姉さんがセクシーなのは認めざるを得ませんが、お姉さんは仕事で忙しく、男とロマンスをしている暇はなかなかないのです~。」
「いや、そんな、そういう事じゃないのですが…」
チェンは真っ赤になりながら必死に抵抗するが、完全に手玉に取られていた。
二人で食堂に入ると、チェンは好奇の目に晒された。
「あれ~、こいつ、今朝のやつじゃないっすか!まだいたんですか!?」
ドーナツが青い瞳を光らせた。チェンは彼が何となく苦手だったので、目をそらした。
「こら~、副主任!子どもに優しくしない奴はモテないんだぞ~、私から。」
「え、ええ…え!?別に俺、主任を狙ってなんかいないですよ!そもそも主任は仕事ばかりだし。」
「なぬ~、私を狙わないとは失礼な奴だな~。まあ、きても断わるけど。」
「ひ、ひえ~、そんな、滅茶苦茶な…」
チェンは思わずブッと噴き出してしまった。
「あ、ガキ、この野郎、笑い事じゃねえぞ。いいか、主任の自由奔放ぶりは筋金入りなんだ。こんなんで噴き出していたら、そのうちに内臓まで飛び出ちまうぞ。」
チェンはさらにおかしくなって、思いっきり笑い転げ始めた。
何となくだが、このドーナツという男も、満更悪い人じゃなさそうだと思った。
「ねえ、これからこの不思議な少年を尋問するんで、一緒に食べない。」
水菜が怪しげな笑みを浮かべてチェンの事を見る。
チェンは一瞬で強張る。
「お、いいですねえ、さてはて、ここでは一体どんなドラマが展開されるのでしょうかね。」
ドーナツも顔がニヤケ初めて、相当に乗り気だ。
チェンはカチコチに固まったまま、勝手に焼肉定食を頼まれて席につかされた。
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