第7話 ミシェルを救え

次の日から、チェンはミシェルの下校を見張るようになった。


マックミラーに夢の話をしたら、マックミラーは女の子をストーキングするような行為はやめなさいと言ったが、これを無視して、見張りの事は内緒にした。


チェンはいざとなれば、せめてミシェルだけは逃がそうと考えて彼女の後をつけていた。


思っていた以上にすぐに、その時はやって来た。


チェンが夢で覚えていたのは、ミシェルは下校時に赤いバンから出てきた男たちに連れ去られるというところだ。


この田舎道で不自然な止め方をしているバンは目立っていた。あれに間違いない。


チェンは全速力でミシェルの元へ走り込んでいく。


「ミシェル!」


ミシェルは驚いて振り返り、自分の元へ全力疾走してくるチェンの姿を確認すると、つい防御の姿勢を取った。


「え!?チェンくん?何?何?」


チェンは少し怖がっているミシェルの手を強引に引っ張る。


「こっちだ!」


チェンは叫ぶ。ミシェルは抵抗するが、チェンはどんどんミシェルを引っ張っていって、バンから離していく。


「あの車に近づいちゃダメだ!悪い奴らに拐われちゃう!」


ミシェルは「痛い、痛い、やめて!」と懇願するが、バンが見えなくなるまでチェンはミシェルを引っ張っていった。


「あのバンに近付くんじゃない!悪い奴らがいるんだ!ミシェルが殺されちゃうんだ!」


チェンが喚いていると、複数の少年たちが走り込んできた。同級生たちだった。


「ミシェルを離せ!この野郎!」


チェンは激昂した同級生に殴られるとすぐに数人に囲まれて殴る蹴るのリンチに遭う。


「お前、怪しいと思っていたんだ。ピーターのやつが、お前がいつもミシェルを付け回してるって聞いてな!てめえ、ミシェルに何をするつもりだったんだ。」


「ち、違う、僕は、彼女を救おうと…」


少年たちの暴力がやまないので、最後まで喋りきらない。


ミシェルが暴力を止めようとするが、チェンが倒れて動かなくなるまでリンチは止まらなかった。


「なんて酷いことをするの!ここまですること無いじゃない!」


ミシェルの訴えに、最初にチェンを殴ったデイビットがギラリとミシェルを睨みつける。


「俺たちが来なかったらどうなってたか分からないんだぞ!お人好しが過ぎるぞ、ミシェル!!」


ミシェルは黙って俯いてチェンを介抱しようと歩み寄るが、デイビットがそれを制する。


「チェン、お前がどういうつもりなのか知らないが、これから一切ミシェルに近づくんじゃない!俺たちが見ているからな!」


「…み、ミシェルが、あ、危ない…下校は、だ、誰かが一緒に…」


「ああ!俺らが一緒に帰ってやるよ!お前から守るためにな!!」


遠目に女子たちの姿も見えた。恐らく、同級生の何人かで僕の事を見張っていたのだろうか。

そうしてミシェルは皆に守られながら帰路についた。


―良かった…とりあえず、今日の危険は一先ず取り除けた。


このまま毎日誰かが付き添っていれば、悲劇は避けられるだろうか。。。


チェンは身体中に痛みを感じながら起き上がり、自身は反対方向にある家へと向かった。


チェンがボコボコにされて帰ってきた事で、先日のことは大事となった。


母親はまだ身体中が痛くアザだらけで顔の腫れたチェンを連れ回し学校に監督責任を求めた。


事情聴取が行われ、リンチに関わった生徒は一週間の謹慎処分を喰らい、これがチェンにとって良くなかった。デイビットたちはチェンを憎んだ。


チェンはクラスを移されミシェルとの接触を禁止にされた。


母親はチェンのした事を聞いて涙した。そして、腫れた顔のチェンの頭を何度も叩き、先生らがそれを止めなくてはいけなかった。


これらの事が起こっても、チェンは自分の夢の話をしなかった。むしろ、苦し紛れについた嘘と思われるだろう。とてもこの状況で信じてもらえるとは思わなかった。


デイビットたちが一週間謹慎すると聞いて、これはまずいと顔が青ざめた。ミシェルがまた一人で下校してしまう。


チェンは前の時にバンの車両番号を覚えていたので、ミシェルの机にメッセージを入れて置いた。車両番号XXXXの赤いバンには絶対に近づくな、と。


そして、さらに遠くから、ミシェルの下校を見守ることにした。


観察をしていると、どうやらミシェルの様子を心配していた友人が、いつも彼女と一緒に下校しているようだった。


チェンはその後、学校ではみんなに無視され、至る所で陰口を叩かれた。


チェンは学校に行きたくなくなったが、自分が学校に行かなくなったらまたミシェルが一人で下校し始めるんじゃないかと心配になり、無理にでも通い続けた。


マックミラーとのカウンセリングのセッションは回数が多くなる。


しかし、あのミシェルとの一件以来、どこかマックミラーはチェンの様子を疑り深く見ているような気がした。


チェンは、マックミラーが自分の夢の話を信じているなら、なぜこのような態度を取るのか謎だった。


そして、灰色の青春を送るチェンに、決定的な夢が訪れる。




―世界の終焉の夢…その日、人類は滅亡した。




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