第5話 歩み寄る希望、忍び寄る悲劇
「…クン……チェンくん!」
ミシェルの声にハッと我に帰る。
テロによるヘンブリーボディ破壊の日以来、まともに眠れていないチェンは目下にクマを作って、空虚を見つめる日々を過ごしていた。
「あ、ああ…ミシェル。」
チェンが無理矢理にでも作った笑顔は痩けた頬と不健康そうな顔色のせいで不気味な様相を呈した。
ミシェルは一瞬怯んだが、すぐに笑顔を作り直す。
「チェンくん、めちゃめちゃボーッとしてたよ。大丈夫?」
ミシェルはチェンの様子に気づいていないフリをする。
「……え?あ、ご、ごめん。」
「え、あ、いや、別に謝るような事じゃないんだけど…チェンくん、何か悩み事でもあるの?」
ミシェルはクラスの誰にでもこうやって優しく語りかけてくれる。チェンは必死で惨劇の妄想を振り切り、目の前の会話に集中することにした。
「…いや、大丈夫だよ、ミシェル。ありがとう。あ、いや、ちょっとだけ、体調悪いかな。でも大丈夫だよ、そんなに悪くない。」
ミシェルは懐疑的な目を向けたが、すぐにちょっとしたため息をついて、
「じゃあ、私は何も聞かないけど、本当に困ったことがあったら、みんなで力になるから。」
と言って、Vサインをしてから、ミシェルが本来いるべきの友達の輪へと戻っていった。
遠くから、なんであんな奴に構っているんだ、とか、優しすぎるよ、とか、そういった類の話が聞こえた。
チェンは自身の地獄耳を呪う。
その日は学校から帰ると、マックミラーが来ていて、何やらまた母親と話をしているようだった。
はて、今日はカウンセリングがある日だったかな?
「ああ、チェンくん、お帰り。」
マックミラーがニコリと微笑む。
どうやら僕の様子がおかしいので、母親がマックミラーを呼んだらしい。
母親は憔悴しきった様子だった。それもそうだろう、最近はあの夢のせいで、僕は叫び声を上げながら僕が目を覚ますらしい。
母親もそうそう眠れていないようだ。
「最近になって、君の様子が酷くなったとお母さんから聞いてね。少し前まで快方に向かっていたと思ったのだけど…」
マックミラーは僕の目を覗き込む。
「話してみないかね?ここ最近で何があったのか。」
いつもの通り、マックミラーは僕が話したいかを聞いて、話すつもりならば準備ができるまで待つという。
言ってしまおうか…この人なら。。。
チェンは決心する。
「あ、あの、マックミラーさん、こんな事を言っても、信じてもらえないかもしれないのですけど…あと、他の人には内緒にしておいて欲しいのですが。」
「…チェン君と内緒話を共有できるなんて、光栄な事だな。どれ、なんでもいい、放してみなさい。」
マックミラーは顔を摩りながら微笑んだ。
チェンは、自分が事が起きる前に夢でその事を知ってしまっていたこと。
その夢がやけにリアルで怖いということ。
事が起きた後には、悪夢でうなされるということ。
このような内容の事をマックミラーに包み隠さずに話した。
話が終わる頃には、マックミラーの表情からは笑みが消えて、代わりに眉間に大きな皺が寄せられていた。
「チェンくん、君はあのテロ事件が起きることを、事前に夢で見ていたというのかい?」
「…はい。毎晩のように、ヘブンリーボディの中で人が死んでいく光景が夢の中で出てくるんです。そして、あのマイクとジェーンのバイク事故も、何度も出てくるんです。しかも、本当にリアルで…怖いんです。」
「……わかった。ちなみに、新しい夢は見ているのかな。」
「いえ、今は何も…」
「わかった。何か新しい夢を見たら、すぐに知らせるように。」
「…はい。」
マックミラーは再びその後で母親と何かを話して、帰って行った。
信じてもらったのかは分からないけど、マックミラーは否定はしなかった。
チェンはこの事を話せた事でいくらか心が安らいだ。誰かに聞いてもらうということが、こんなにも心を晴らす事になるとは思いもよらなかった。
しかし、チェンが心が回復の兆しを見せたまさにその時、チェンにとっては、最低最悪の夢を見てしまった。
その夜に目覚めたチェンは、自分が視たものが信じられなくて、目を見開き心臓が止まるかと思った。
―ミシェルが殺されてしまう…
第六話『
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