第4話 彷徨う未来
学校に戻るようになり一ヶ月ほどが経ち、ミシェルの助けもあってようやくグループのモブとしてチェンは復帰した。
相変わらずの愛想笑いと何も喋らずそこにいるだけの存在感で、それなりに上手く毎日を切り抜けていた。
あれ以来、マックミラーは週に一回程度でチェンを元を訪れていた。
彼が姿を見せる時に、母親は決まってしっかりとした化粧をするようになっていた。チェンはそれを女性としての見栄と捉えた。
心無しか、そんな母親を見るのがなぜか嬉しかった。
母親の父親に対する悪口も、最近は少し収まってきたような気もする。
マックミラーは決してチェンを無理に喋らせようとせず、いつもチェンが話し始めるのを待ってくれていた。
マイクとジェーンの事故現場を目撃したことで、その夢が何度も出てくるという話はしたが、その夢を事前に見ていた事は内緒にしていた。
少しおかしな事を言うとか、嘘つきだとかをマックミラーに思われるのが嫌だった。
そうとはいえ、彼はいつもチェンの言うことを肯定してくれた。
セッション後はいつも少し長く母親と話をして、結局は診療時間を大幅にオーバーからして帰っていった。
チェンは、自身が気づいていなかったほどに凍りついていたの朴念仁であったが、少しずつ心が瓦解していっているのを感じていた。
−もう少し頑張って、お友達作ってみようかな…
自分の中に、そんな気持ちが芽生えた事が不思議だった。
チェンがそんなことを考えていた矢先のこと…
またしても、臨場感溢れる悲劇の夢がチェンを襲う。
ロイドア連邦の象徴であり、世界一の高さを誇る建物である【ヘブンリーボディ】が反政府過激派により爆破され、巻き込まれた人間が万単位で死んでしまう。
−バカな!この平和な社会であり得る事じゃあない。
チェンは、本当に自分は頭がおかしくなったんじゃないのかと疑い始めた。
しかも、夢もただの夢ではないように思われた。
…一回の夢で、何度も色々な場所を行き来して、最終的に大惨事に結びつく、というシナリオだ。
まるで、終わりの決まっている映画のストーリーを脚本家が何度も作り直しているような、そんなイメージだった。
チェンが目覚めた時にはまだ真夜中で、ベッドは汗でぐっしょりだった。しかも寝る前よりも疲れていた。
ハー、ハー、と過呼吸気味にトイレに行って、顔を洗うと、母親が起きてきて、何事かと聞いてくる。
チェンは少し腹が痛い、何かに当たったと嘘をつき、胃薬を飲んで寝室に戻っていった。
この夢も、その後に何度か見ることになった。
しかしながら、ヘブンリーボディには何も起こらず街は至って平和だった。
(本当に頭がおかしくなったんじゃないだろうか。)
チェンは繰り返し、別々のシナリオを辿って最終的に辿り着くこの光景に戦慄を覚えたが、誰にも相談できずにいた。
ただでさえ何考えているのか分からないと言われている。こんな事を喋り始めたら、本当に気が狂っていると思われてしまう。
そして、チェンが最初にこの悪夢をみてから二ヶ月半後、惨劇は起こった。
反政府組織ではなかったが、ロイドア連邦の介入を嫌う独裁国家によるテロ攻撃であった。確かに夢の中にはこのシナリオもあった。
人類の叡智の象徴であるヘブンリーボディは爆破された多くの犠牲者を出しながら崩れ落ちる。
映像で見るその惨劇は、チェンがまた夢で見たそのものであったため、チェンは自分が夢の中にいるのか現実にいるのか区別がつかなかった。
「あ、あぁぁぁああ!!」
急速に拡散されたテロ襲撃の映像を目の当たりにし、チェンは狂ったように叫び声を上げた。
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