第3話 カウンセラーがやって来た
チェンは普段一人でいる時は、教科書を読んでいるふりをしたり寝たふりをして授業合間の時間を潰していた。
特に誰にも気にされることもなく、そのまま一日を終えるのが日課だ。
正直なところ、一日の終わりには、いつもなぜかホッとしていた。
しかし、これも最近までの話だった。未だにあの夢の内容が頭から離れない。
それに悪夢もほぼ毎晩見ている。人の死に顔を見るのは初めてだったからかもしれない。
家に帰ると、知らないおじさんが家を訪れていた。
「チェン、こちらは精神科医のマックミラーさんよ。」
どうやら母親は僕の気が狂ったと思っているらしい。
マックミラーと呼ばれたその“医者“は、母親にカウンセリングを始めるから出ていってくれというと、僕を椅子に座らせて自分はソファに腰掛けた。
「マックミラーだ。心の病を治す仕事をしている人だよ。」
そう自己紹介すると、マックミラーはじいっと僕の目を覗き込んだ。
気まずくなり、チェンは目を逸らす。
ふむ…
そんな声が聞こえる。
「チェンくん、私は何も、君をとって食おうというわけじゃないんだよ。君のお母さんがね、君が毎晩うなされていると言って、とても心配しているんだ。だから私が呼ばれたんだよ。」
チェンはそんなマックミラーをチラッと見る。マックミラーは少し微笑んでいるように見えた。
チェンの視線を機とみたか、マックミラーが続けた。
「チェンくん、君は何で毎晩うなされているのか、心当たりがあるのか、聞かせてもらえるかな。」
「………」
「…答えたくはないなら、それでも良い。君が大変な目に遭ったのだという事は私は聞いている。しかし、話したくないのなら、無理はしなくてもいい。そういえば、少し喉が渇いたな、飲み物をいただこうか。」
そう言うとマックミラーは立ち上がり、コップに水を注いで水を飲み、別のコップにも水を注いでチェンに渡す。
チェンが水を受け取った様子を見て満足したマックミラーは、再びソファに腰掛ける。
「チェンくん、私はね、沢山の人の心の病を治療してきたんだ。それこそ、恋人を失い失意に明け暮れている人とか、人生に絶望して自殺をしたがっている人とか、幻覚や幻聴に苦しめられている人とか、麻薬中毒患者のリハビリに付き合うとか…一日に何回も手を洗わなきゃ気の済まない人とかもいたよ。」
また緩やかに微笑んだマックミラーにチェンは思わず口元を緩めて反応した。
その反応に満足したマックミラーは「まあ、いつも上手くいくわけじゃあないけどね」と加えた。
「さて、チェンくん。私の経験上、人は何もなくて夜中にうなされるなんて事は滅多にないわけだけど…君が何も話たくななければ、私はあまり余計な事は聞かずに退散する事にするよ。でもまだ君がうなされるようならば、私が力になれるかもしれないよ。お母さんも、それを望んでいるはずだ。」
お母さんと聞いた時に、チェンの顔が強張ったのをマックミラーは見逃さなかった。
マックミラーは徐に名刺を取り出すと、それをチェンに渡した。
「もし、直接私に話したいことがあればいつでも、一人でも、事務所に話に来ても大丈夫だからね。」
その後、母親と少し話をしてからマックミラーは帰ったようだった。
立ち去っていくマックミラーとそれを見送る母親を窓越しに見つめていると、チェンは急にどっと疲れを感じたので、ベッドに横たわり、そのまま熟睡した。
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