第27話 決死のダイブ

 一本のワイヤーを皆のフックに縛りつける。


 これで皆が一つに繋がった。


 これで皆が運命共同体。死ぬ時は一緒だ。


 ケーブルは徐々にメイトたちの方向からみて北東の方角ではあるが、メイトたちがスピードを出して北西に飛んでいけば、先回りすることができる。


 狙いは、メイトたちから遠ざかる前にケーブルを待ち伏せして、皆んなで一斉にケーブルに飛びつくことだ。


 メイトもエアシューターを八割以上使い切っていて、決して余裕があるわけではない。


 皆が息を合わせ、同じ方向へと進んでいく必要がある。


 作戦は、ワイヤーの出どころであるメイトが先行して、レーザーポインターを頼りながらケーブルとの予測接触ポイントを目指す。


 後ろからついてくるメンバーは、空気噴射に余裕がある者から順に一列に並び、メイトについていく。


 メイトの後を付かず離れずの距離で追い、ワイヤーが突っ張らないように空気噴射を調節しながら進む。


 一番後ろはホッパーとなるわけだが、後ろのメンバーの空気が尽きた場合、前のものが引っ張るという構図だ。


 後ろのメンバーは前のメンバーを追い越して混乱を起こさないように気をつけて進む事を意識して、空気が尽きたらそのまま何もしないでついてくるだけだ。


 早速メイトがレーザーポインターをケーブルとの予測接触ポイントに照らし始める。


 一本の光の道が真っ直ぐに伸びていく。


 十人の飛行士たちは、光が進む方向に飛んで行った。


 全員はリズミカルに、空気を小出しにしながら加速する。


 ワイヤーが突っ張らないように。それでいて、緩みすぎて追いついてしまわないように、微調整を繰り返しながら…


 大体の距離の予測はつけているが、機械の計測なしに、見た目で判断しているのでイマイチどれほど加速すればいいのかが掴みづらい。


(もっと加速する必要があるか?)


 メイトはサイクリング時代に培った走っている最中の立体感覚で、もう少し急いだほうが良いだろうと判断した。


 そして、少し加速する。


 その瞬間、ワイヤーが引っ張られる。


(加速しすぎたか?いや、それほどは…?)


 不意に振り向くと、皆のワイヤーが瞬間的に引っ張られてしまったせいで緩んでしまい、列が乱れていた。ホッパーが手を振っている。


 どうやら、ホッパーの空気噴射が切れてしまったらしい。


 メイトは了解の合図を送った。


 思ったよりも早くなくなってしまったが、仕方がない。


 残り九人でホッパーを引っ張りながら進む事になる。


 メイトは再度、レーザーポインターの向きを調整し、今度はもっとゆっくりと加速する。


 半分ほどの道のりまで来ただろうか。


 またしても同じ現象が起こる。


 今度は、ホッパーの次に空気がなかったクルーの空気噴射が尽きてしまったようだ。


 宇宙空間なので、スピードが落ちるということはないし、時間をかければ予測接触ポイントまでは必ず辿り着けるが、ケーブルが通り過ぎる前に回り込まないといけないとなると、もっと加速しないといけない。


 メイトは方向の微調整が極力不必要になるように、慎重に真っ直ぐ飛ぶように心がける。横にズレたら、その分の空気ロスが生じるからだ。


 加速を続けている中で、一人、また一人、と空気がなくなり、引っ張らなくてはいけない質量が多くなっていくにつれて加速しづらくなっていく。


(空気よ、持ってくれよ!?)


 メイトは後ろの状況を確認するために振り向くことでさえしたくなかった。


 空気抵抗など関係ないので無意味に映るかもしれないが、身体をピンと真っ直ぐにして、ただただ光の指す方向へ向かって少しでも横に身体がブレないようにピクリとも動かないようにして、空気だけを噴射する。


 メイトのエアシューターのエア、残り3%。ついに九人目のクルーまで空気がなくなり、メイトだけが空気噴射できる状態となった。


 ケーブルももうかなり近い。後数分もすれば接触ポイントを通り過ぎるであろう。


 ギリギリで回り込める。メイトは直感した。


 後は、方向がズレないようにほんの少し左右の噴射で方向を定めるだけだ。


 しかしながら、ケーブルが通り過ぎてしまえば、二度とチャンスはないだろう。


 ケーブルを掴むチャンスは一度だけだ。


 メイトは集中力を高める。


 エアシューター、残り1%。


 接触ポイント到着。


 メイトはすぐに逆噴射で勢いを止めて留まろうとするが、逆噴射で身体を止める前に空気が尽きてしまった。


 ケーブルが近づく。


 メイトは手を伸ばす。


 だが、ケーブルは数メートルメイトの手の先から離れたところで通り過ぎた。






 第28話『行きはよいよい帰りは怖い』へと続く。





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