第24話 隕石飛来!
メイトが出発すると、彼の姿はすぐに肉眼では確認出来なくなった。
その後、モニターはメイトの宇宙服の頭部に付けられたカメラを映し出すが、やはり磁界に邪魔されて、まともに映像が届かない。そして恐らく、音声も届かない。
遠くから見る事しか出来ないのだ。
問題などないはず…こう思っていても、中央管理室の中は緊張感に包まれていた。
メイトはそんな仲間たちの気苦労も知らずに、スゥーとした滑走を楽しんでいた。
サイクリングの神、と呼ばれていた時代を思い出す。
ツール・ド・アースではチーム総合優勝三連覇を成し遂げ、いずれもエースとして活躍した。
あの時の過酷さと比べたら、空気の力で前へ進み、身体を動かして方向を定めるだけ。
なんとも味気ないライドではあるが、加速する感覚が気持ちよかった。
メイトは予定よりも20分速く辿り着いた。
少しエアーシューターを使い過ぎたかなと反省したが、帰りは閃光弾を打ち上げてケーブルで引っ張り上げてもらうだけなので、さほど気にかけてはいなかった。
早速ホッパーたちのいる脱出用シャトルまで歩み寄っていく。
ホッパー達は、誰かが派遣されてくる事をドローンのモニターを通じて知っていたので、既に宇宙服に着替えて救出を待っていた。
メイトは早速チェンソーを取り出して、それを見せて、これから何をするのかのジェスチャーをする。
メイトは、『分かったか』、の確認で相手を指差しながら大袈裟に首を縦に振る。
ホッパーは瞬時にこのレスキュー隊員が、自らが提唱した宇宙空間コミュニケーションの様式に精通していると悟る。
ホッパーは自分を指さして大袈裟に首を振って返す。
ホッパーは『待て』の合図を送り、乗組員たちの後ろに下がるように促す。
音が聞こえないと、うっかりチェンソーに触れてしまうかもしれないと思い、大袈裟に距離を取る。
ドアの角からチェンソーの刃が見え始め、それが徐々に広がっていく。
綺麗に四角く切られると、ちょうど一人ぐらい出れる穴となった。
チェンソーを鞘に納め、メイトはホッパーらを指差し、順番に出てくるように指示する。出てきたら、今度は両手を前に出して、「ここで待て」、という合図をする。
全員が出てきたところを確認すると、「ついてこい」、という合図を送る。
ここまでは順調であった。
これからみんなをコンテナに入れる。
コンテナは現在電力を利用して磁力を生みロード245Aに付着しているので、コンテナの電力を切って磁力を外す。
そして、コンテナに開けている穴の中から閃光弾を撃ち、それに蓋をして、ケーブルで引っ張ってもらう。
このような手順をメイトは頭の中で反芻しながら、コンテナに向かう。
しかし次の瞬間、その計画は木っ端微塵に打ち砕かれる事になる。
高速でコンテナ付近に何かが落ちたかと思うと、たちまちメイトたち目前に砂埃の壁が迫ってくる。反射的に身体を丸めてももう遅かった。
砂埃の壁に押されて、皆んな遥か後方へ吹き飛んでしまった。
「何事だ!?」
メイトは瞬間的にできた砂嵐のような状況のせいで視界を奪われたが、視界がクリアになると、何処にいるのか全く不明の状態であった。
しかも身体が回転してしまっている。遠目に見える隕石たちがそれを教えてくれる。
メイトはエアシューターを噴射させて回転を抑えた。
(一体どうしたのだ?みんなどこへ行った!?俺は何処だ!?)
辺りを見渡すと遠目に隕石が見えるばかりである。
(原因不明の何かに吹き飛ばされた!?どういう事だ!)
メイトは辺りを確認しながら、思考を巡らせる。
結論はすぐに出た。
あの場所に、運悪くも、隕石の欠片などが落ちてきたのだろう。
直撃こそしなかったが、その圧力波のせいで、砂嵐が巻き起こり、それに吹っ飛ばされたのだ。
ロード245Aはどこに行った?
メイトはあらゆる場所をキョロキョロと見回す。
そして、自分の足元の方向にロード245Aがある事を確認した。
もうかなり吹き飛ばされてしまったようで、コンテナは豆粒ほどの大きさになっていた。
そして、同じような状況で吹き飛ばされた何人かの姿も確認した。
どうやら、一番前を歩いていたメイトがこの砂嵐の影響を最も強く受けて、一番遠くに飛ばされたらしい。今でも遠ざかっているようなので、身体の方向を整えて、エアーシューターを使い勢いを止めた。
メイトは即座にレーザーポインターを取り出す。
相手に自分の姿が見えていない時に、自分の場所を知らせるための道具で、ホッパーの著書に宇宙空間に単独で出る際に必ず持っておくべき道具と記されていたので、肌身離さず持っていたのだ。
(ホッパー船長、ありがとうございます。)
まさかこんな状況になるとは想像できなかったが、これがなかったらと思うと背筋が凍った。
メイトはレーザーポインターを照射する。
先ずはクルーの目の前にレーザーを通過させて、それからロード245Aを指す。
これを交互に行い、ロード245Aの位置をみんなに知らせようと試みた。
何人かは気付いたようで、勘の良いクルーの何人かはロード245Aの方向へ空気の噴射を調整して向かい始めた。
気づいていなさそうなクルーはしばらくキョロキョロしているようだったが、何度もレーザーポインターを本人に当てて、気づかせた。
(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…よし、これで全員だ。)
メイトも強力な圧縮エアを噴射するエアシューターを使い、ロード245Aに戻ろうと向かい始める。
今度はメイトは小型の高倍率双眼鏡を取り出す。これもホッパーの著書に出ていた、行き先の様子を確認するための必須アイテムだ。
双眼鏡と言っても、宇宙服上から見なくてはいけないので、どちらかと言えば虫眼鏡に近い形になっている。しかし、遠くがよく見える。
双眼鏡を覗いた瞬間、メイトは戦慄を覚えた。
コンテナがひしゃげていて、付いていたはずのケーブルがない。
しかも、幾つか細かい隕石の破片のようなものがロード245Aに降り注いでいた。
(あそこに戻ってはいけない!!)
メイトはこの事を皆に知らせなければいけないが、恐らくレーザーポインターを使っての「止まれ」の合図を理解できるのはホッパーだけだ。
エアシューターを使い、全力で加速して皆んなを追い抜きにかかった。
回り込んで止めなくてはいけない。
第25話『命がけのキャッチ』へと続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます