第23話 開かずの扉
ホッパーが開けられないのに剛を煮やして、最も力の強そうな護衛の一人がホッパーと場所を入れ替わり、力任せにドアを開けようとする。
またしても、ドアはピクリとも動かない。
「ま、まさか、墜落の衝撃で壊れてしまったのか!?ドアが少しひん曲がってしまっている。しかも、磁石か!?」
今度は大勢で束になってドアを押したり、蹴飛ばしたり、バールを使って開けようとても、一向に開かない。
『どうした?ドアが開かないのか?』
ドローンのモニターに文字が映し出される。
ホッパーはノートを取り出し、宙に浮かぶペンをキャッチして、ササっとメッセージを書く。
『ドアが壊れてしまったようだ。こちらから開けることはできない。そちらから開けられないか。』
ドローンからの返事に少し間が空く。
『このドローンではパワー不足だ。もう一台、カッターを付けた無人機を準備することにする。少し待てるか。』
この返事に、ホッパーらは顔を歪めた。
『待て、とはどのぐらいだ?』
『十分なパワーを持つ無人機を磁界の影響を受けないように改造するのに四日ほどかかる。』
ホッパーはこの返事を聞いて、すぐに筆をノートに走らせる。
『もう何日も食べていない。もはやみんな限界だ。食糧庫が吹っ飛んでいってしまった。もう何もない。』
宇宙服のせいで表情はわからないが、四日間と伝えた時の絶望は想像に難くなかった。
「し、シゲキ船長、どうしましょうか…」
オペレーターのサクラは、少し黙り込んでしまったシゲキに指示を仰いだ。
(どうする。。。?このまま作業に入り、生き残ってくれることを願うか…しかし、それでは。)
シゲキが苦悩している様子を見て、ある男が声を上げた。
「シゲキ船長!私が非磁性超硬合金チェーンソーを担いで行きますよ。」
彼の名前はメイト・クローム。かつて地球上では名を馳せたサイクリストだったらしいが、今ではシゲキ船長率いるバルトのエンジニアである。
AIの細かい作業をサポートするために、比較的多く船外で作業をしたりすることがあり、確かに宇宙遊泳経験者としては適任だ。しかし…
「何を言っている!チェーンソーを持ちながら三十キロも泳いで行く気か!?」
「エアシューターを幾つかくっつけて飛びます。何個もつければ結構スピードが出ますよ。ケーブルにフックをつけて、それを着用したハーネスに付けて、それに沿って飛んでいけば、真っ直ぐ進んで、一時間とかからないですよ。」
メイトの提案は、実はそれほど悪い考えではなかった。
チェンソーでドアをカットして、ホッパー船長らを救出。
それから全員をコンテナに詰め込み、ケーブルを引っ張って回収。
その後、各船に連絡、それから小惑星帯を抜けて、太陽系を離脱…筋書きは悪くはない。
「…よし、メイト、お前に任せる。だが、決して無理はするな。宇宙空間では、何があるのか分からないからな。」
「分かりました!許可を出していただきありがとうございます!」
何を、礼を言うのはこちらの方だ、と言うのは控えることにした。
そういえば、メイトはホッパー船長の著書を沢山読んでいたな。エンジニアとして二足の草鞋のホッパー船長を尊敬しているということだろうか。
一方で、メイトは自分こそが適任と考えていた。
ホッパー船長の著書に、宇宙空間における人間同士のコミュニケーション手段の方法を記した物がある。
これは、何かの形で音声での通信が不可の場合に、互いにどのようにして意思疎通を図るかについて書かれており、この状況はそれに近い。
ホッパー船長ならば、自分が行うジェスチャーの意味を全て理解するはずだ。
そう確信しているメイトは早速宇宙服を着て、ハーネスをつけ、非磁性超硬合金チェンソーを背中に担ぐ。
『バルト』も他船と同じようにコルクのごとく回転して重力を生み出しているので、メイトは特別ルームへ入り、そこで徐々に回転を減速させ、重力を無くしていく。
無重力状態になってから大型ハッチを開けて宇宙空間へ出ると、長く続くケーブルの先に、うっすらとした太陽光に当てられて不気味に光る大きなロード245Aが見えた。
メイトは一息付いて、ケーブルにフックをかける。
『フックが入りました。これよりロード245Aへ向かいます。』
ハーネスをつけたメイトは、エアシューターを使い加速した。
第24話『隕石飛来!』へと続く
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