第22話 届いたSOS

 シゲキは悩んでいた。


 ホッパー船長らを救出して脱出する。ただそれだけの事なのだが…


 あのロードストーンの塊、近づけば計器を狂わせる。


 AIだって間違った情報から物事を判断すれば結論を間違えてしまうのは必然。無人機を送り、ホッパー船長らを抱えて戻ってくることは可能であろうか。


 救出が成功し、それから離脱し、プリン船長らに無事を知らせハルモニアへと向かう…


 この筋書きが理想であろう。


 しかしながら、計器の狂う無人機を送って救出活動を行なっても、失敗する可能性が高い。自動噴射で飛べなかったら、ここまで戻って来れるのか怪しいものだ。


 そもそもホッパー船長らは生きているのだろうか?おそらくだが、あの脱出用シャトルは鉄分を含む素材で出来ていて、相当な衝撃でぶつかったに違いない。。。


 そんな事に頭を悩ませていたら、オペレーターのサクラの元に、ザー、ザー、っと通信が入る。


「シゲキ船長、通信が入っています!内容はさっぱり分かりませんが、脱出用シャトルからであると思われます!」


(生きている!)


 少なからずとも、バルトの中央管理室の面々の表情が少しほころんだ気がした。


 俺たちはそうだ、生きていてくれている、ただそれだけで、嬉しいんだろう。


 シゲキの心は固まった。よし、出来るだけの事はしよう。


「いくつかのリソースを失う事になるかもしれないが、助けようぜ!」


 ポカリは自分の頭をぽかりと叩いて、仕方がないというように頭を振った。こうなったらシゲキは止まらない。


 一枚岩、というほど全ての船の民が団結しているわけではないが、少なからずともシゲキのこんなところが、彼がずっと船長で居続けていられる理由と言えるだろう。


 先ずは通信を送り、ホッパー船長らに「近くにいること」を伝える。


 返事を返すように、モールス信号かのごとく点いたり消えたりする通信が届く。


 意思疎通はできたと考える。


『バルト』では早速救出プロジェクトが発足する。


 無人機を出してホッパー船長らを救出する、という案で決定した。巨大な磁石隕石の名前も決まった。「ロード245A」である。


 無人機は探索用ドローンを改造して製造する事になった。探索用ドローンはエコに配慮し質量を少なめにするために、そもそもアルミ合金で出来ているので、このミッションには適任だ。


 さらに、磁界を通さない素材で精密機械をコーティングする。


 こうしてロード245Aの強力な磁界の影響を受けない状態にして、人が入れるように、これまた磁界を通さない素材でコンテナを作り無人機に括り付けた。


 このコンテナにホッパー船長らに入ってもらい、ケーブルを引っ張ってコンテナを回収するという作戦だ。


 この工事に丸々三日間かかってしまった。


 もしホッパー船長らに何かしらの異常があったのであれば、これは致命的な時間となる。しかし、雑音だけの通信のやり取りにより生きていることだけは確認できていた。


「準備が整いました。」


「よし、すぐに送り出せ!」


 ポカリがシゲキに報告すると、さっそく無人機を飛ばし救援に向かわせた。


 無人機そのものは磁界から守られていても、通信は妨害されるので通信での操作ではなく、ケーブルに無人機から出るケーブルを繋いで遠隔操作を可能にする。


 飛ばされた無人機は真っ直ぐにロード245Aに向かっていく。


 距離は三十キロほど、三十分ほどかけて辿り着いた。


 無人機が着陸すると、すでに餓死しそうにゲッソリとして乾いた唇をパクパクさせながら死んだ魚のような目をしていたクルーたちの目に光が灯り始めた。


「あ、あれは…救助の、船だ。た、助かるぞ。み、みんな、宇宙服を着るんだ。」


 元々ボソボソと喋るホッパーの声はこの時はもはや枯れた小声にしか聞こえない。しかし、クルーたちはそれでも全霊をかけてそれを聞き取り、実行に移していった。


 最後の望みだ。


 皆が宇宙服を着終わる頃に、ドローンを改造した無人機が脱出用シャトルの中を覗きに来た。


 その映像は、『バルト』の中央管理室でも共有されている。


「よし、人数は全員で十人未満ってところか。これならば全員コンテナに十分入るな。皆んな宇宙服を着込んでいるようで、用意の良いことだ!作戦を伝えるぞ!」


 ドローンはモニターを出来るだけ脱出用ポッドの窓に近づけて、みんなに見えるように文字を打ち始める。


『皆無事か?怪我人はいるのか。』


 ホッパー船長は、首を横に振ってそれに答える。


『今から、皆んなをコンテナに移動する。みんな宇宙服は着ているな。』


 ホッパー船長を含む皆んなが今度は首を縦に振って答える。


『ドアを開けたら、すぐにこのドローンについて来てくれ。コンテナまで案内する。分かっていると思うが、貴金属の類などは身につけない方が良い。磁石に吸い寄せられる類のものは全て破棄してくれ。』


 ホッパーらはまたしても大きく頷く。


『念のため、宇宙服にそれらしい部品がないか確認しれくれ。最も、そんなものがあればその席から立ち上がる事だって出来ないだろうが。』


 ホッパーらは、一応で身の回りを確認する。そもそも、磁石に吸い寄せられるような類のものはずっと床にガッチリくっついて離れていないのだが。


『あなたたちはコンテナに入ってくれさえすればいい。それからコンテナをケーブルで引き上げる。コンテナの中ではまだ宇宙服は脱がないでくれ。尚、この小惑星は磁力は凄いが重力はほぼ皆無だ。飛び跳ねてしまわないように注意してくれ。分かったかな。』


 ホッパーらは大きく頷く。


『よし、それでは、ドアを開いて出て来てくれ。』


 ホッパーはドアに手をかける。


 …ドアが固まったように動かない。ホッパーはドアのロックが解除されているのか、確認する。ドアのロックは外れていた。


 ホッパーは再び力を込めてドアを開けようとする。


 ドアは、ピクリとも動かなかった。






 第23話『開かずの扉』へと続く


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