第9話 ブラック・イージス脱退
小僧…バターマンはそう言われて、ぐうの音も出なかった。
実際に彼は40歳を超えていない、他の船長に比べれば子供のような時間しか生きてきていない。プリンがそれを知る由もないが。
バターマンは顔を引き攣らせながら、もう隠すつもりもないと言った様子で大きな舌打ちをする。
「おい、クソ女!てめえが何様なのかは知らないが、この侮辱、忘れないからな。てめえの船も、めちゃめちゃにしてやる。計画のことも民衆にバラシてやるからな!」
「おい!暴言を吐くのはやめたまえ!」
『バルト』のシゲキ船長がバターマンをたしなめようとする。バターマンは白目を剥いて怒り心頭という様子だ。
「よおく、分かりました。この仲良しグループの皆さまは、大層ホッパー元船長が好きだった様子で。あなた方がそうなら、私にも考えがあります。金輪際、付き合うこともない。六船協定も破棄させていただく。我々は、これから100AU離れた宇宙でスーパーフレアをやり過ごし、狂った計画に乗るのはやめておくことにしましょうか。」
「まて!お前は、船内の民の命を預かっているという自覚があるのか!?」
コズモが即座に口を挟んだ。
「当然です。むしろ、なぜ三百光年も先へ行こうなど、世迷い事ともとれる無謀な計画にみんな本気になっているのか不思議なぐらいです。」
「世迷い事…それは違うぞ、バターマンくん。」
シゲキ船長の名前の呼び方に、バターマンの目じりがピクリと動く。
「科学的根拠に基づいた計画だ。そもそも、スーパーフレアは100AU以上届く可能性が十分にある。いや、その領域だと、資源を採取し続けるのは難しい。無謀なのはあなたの考えの方だ。」
「フン、ホッパーの奴はそういう計画も立てていましたよ。予備のね。おうし座の方向に150AUぐらい離れたら隕石群が存在する可能性がある。それを利用し、資源を回収し、我々は生き残るのだ。」
「…恒星が近くにないから見えない地点じゃないか…もしろくなものがなかったら、と考えないのか。」
「さあてね、あなた方の言う通り、ホッパーは優秀な男なんでしょう?」
バターマンは皮肉たっぷりに言う。
「いや、危険すぎる。隕石があるとはいえ、隕石の状態によっては資源を採取できない可能性だってあるんだぞ。だからこそホッパー船長も、ハルモニア移住計画を第一に進めてきたのだ。」
コズモもバターマンを止めようとする。
「いや、彼は、我々ヴィタラの民を根絶やしにするチャンスだと思ったのでしょう。人類が何割か死ねば、到達する可能性は大幅に上がるのでしょう?もういい、貴方たち、化石のような人類は、巨大船を完成させ、宇宙へ飛び出たことで、自分たちの力を過信しているのでしょう。我々若い世代の人間が、突破口を開きますので、よくみておいてください。」
その後、シゲキやコズモが説得を試みたが、『フェニックス』のキルケ船長も、『ノースウインド』のプリン船長も、『クルーガーランド』のジライヤ船長も、もう放って置けと言って、会議は終わりとなった。
その後、『ブラック・イージス』は150AU離れた隕石群を目指し、おうし座の方向へと船を飛ばしていった。
第10話『足りない資源』へと続く
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