第5話 予言の力
眩しい光が天を照らす。
人々は呆然と立ち尽くす。もはや、この光からの逃げ場などない。
少年は思う…
あの時、何もかもを知っている僕が行動していれば、こんなことには…
少年の頭の中で、様々な可能性が飛び交う。そして、その思考はやがて少年をその世界から切り離し、もう一つの別の可能性の世界へと誘う。
違う、ここじゃない…
違う、ここでもない…
またまた違う…
少年は何度も可能性の世界を漂う…
感覚は混沌で、自分が本当に存在しているのかの認識さえ欺かれているように思われた。
ただ彷徨っている…
それなのに、何かを求めている感覚はある…
そして、一つの可能性に辿り着き、感覚が教えてくれる。
ああ、ここなんだね…
ここで、少年は夢から醒める。
「はぁ〜い、かわいい僕。こんなところで何してるのぉ〜…え、私!?私はここの研究所の美人で可愛い主任よ〜。びじかわ?かわびじ?いや、どうでもいいわね!よろしくねぇ〜ん!」
紫色に髪を染め、綺麗なボブカットをした小柄な女性が愛想を振りまいてやってきた。
胸のバッチに書かれていた文字だけ覚えている。
『
少年は目を擦りながら起き上がった。
_______________
−オムニ歴83年5月30日
新宗教法についての協議会…
という名目で、コズモは教皇チェンとの対談に臨む。
他愛も無い会話とフレンドリーな協議内容で駆けつけた記者たちを大きくがっかりさせた後、コズモは教皇に施設案内をすると言って協議会を締め、すでに興味が失せた記者たちを後にした。
案内先の給湯室にポツンとあるテーブルに腰掛け、お供たちを追い払うと、コズモは教皇チェンと二人きりとなった。
「ようやく落ち着いてお話をする事ができそうですな。」
コズモは茶を飲み始める。
「喜ばしいことです。私の見た未来では、あなたが協力的になってくれるのかどうかは見えなかったのですよ。そして、そうでなければ、この船の、いや、全ての船の命運は尽きていたと言えるでしょう。」
教皇チェンは飲み物には手をつけずに語り始めた。元気そうではあるが、大分前から若返りを放棄しているようで、すでに見た目も七十歳を超えたぐらいの老人を思わせた。
老人というのはこの船では珍しいので、コズモに若干の違和感を与えていた。
というのも、教皇からは、温和な喋り方とは裏腹にやけに強い圧のようなものを感じたからだ。
強さ云々ではない神秘的な何かが感じとられ、コズモに畏怖せよと訴えかけてくる。
「…命運が尽きるとは大袈裟な。そもそもスーパーフレアは、起きる可能性があるというだけで、起きると確定しているわけではないでしょう。」
「いえ、スーパーフレアは必ず起きます。正確な時期はズレるかもしれませんが、これは確かな未来と見えました。」
老人らしいしわれた目の細め方で教皇はテーブルのコップを見つめる。
「そもそも、貴方が未来を見た、というのはどういうことなんですか。正直なところ、いまだに貴方の言っていることがよく分からない。スーパーフレアの話も、地球にそっくりな惑星があるという話も、全くもって、貴方がどうして知り得たのか、説明がつかない。この船には最も優れたAI『ミズナ』が搭載されていて、最高峰の宇宙ソナーも積んである。太陽系内で起きることならば、船が、つまり、我々が、最も早く感知するはず、なのに貴方は…」
そこまで喋って口をつぐんでしまう。
コズモは元来迷信を信じるタチでもなければ信心深いわけでもない。
しかし、何かカラクリがあるはずだ、と期待していた事象に自分自身の喋りが整理をつけ始めたせいで起こった思考の矛盾により、これ以上は何も言えなくなってしまった。
カラクリを挟む余地がない…
教皇はここでようやく出された茶を啜り始める。
「私が知る
コズモは思わず眉をひそめてしまう。
胡散臭い儀式などを想像していたが、これはこれで胡散臭い。
「詰まるところ貴方は、予知夢を視る、とでも言いたいのかな…?」
コズモの質問の教皇は困った様子を見せる。
「ふうむ…なんと説明すればいいか。一般的に言うような予知夢とは少し違うかもしれませんが、確かにそのような性質もあります。ほぼ確定している未来と、干渉可能な未来の両方があります。」
「…なかなか理解が追いついていかないのですが、どうして自分の見た夢がそもそも未来を予測していると、そんな確信を持てるのですか。」
「コズモ船長、私とこの能力は既に百年以上もの付き合いがあります。太陽の活発期で、地球が未曾有の危機に晒されることも存じていました。」
コズモは大きく目を見開く。
「そんなことを予期していたのですか!?それならば、なぜその時に貴方の名前を聞かなかったのでしょうか!?」
「…突然太陽がどうのと騒ぎ出す子どもの話を誰が信用しますか?」
コズモは黙り込む。
「私も最初はただの夢だと…私の心の中の不安な気持ちが、そのような夢になって現れているだけなのだと思いました。いや、そう思いたかったのです。しかし、私の中に超感覚のようなものがあり、これは絶対に起きること…そんな妙な確信がありました。」
「…」
「周りの人から見れば、さぞかし狂った子どものように見えたでしょう。気味が悪がれ、壮絶なイジメに遭いました。神を信じているはずの母親も、精神科医のカウンセラーを雇って私を治療しようとしました。私は自らのこの能力を呪いました。」
「…」
「幾度かの夢を経て、自分が特異点であることを学びました。分かりやすく言うと、未来を変える可能性がある者、です。」
「…」
コズモは眉をひそめる。
「そして、まだ子どもだった私は親のお金を盗んで家を飛び出し、分岐点へと向かっていきました。悪い子供と思いますか?そうするしかなかったのです。どうしても、会いに行かなくてはいけない人がいましたから。そうでもしないと、人類から巨大宇宙船が出ることもなくなっていました。」
「…ちょ、ちょっと待ってください!あなたの言うことを間に受けるなら、子どもの頃の貴方が行動したお陰で、地球から逃げ延びた人々がいた、要するに、人類が生き残った、みたいな事になるじゃないですか!」
「まさに、そういうことを言っております。」
コズモは口をあんぐり開けて、言葉に詰まった。
この男は、自分が人類を救った英雄だとでも…
しかし、信じるならば、そういう事になる。
教皇の顔は、涼しいほどに一才の虚勢が見えず、コズモは恨めしそうに老人の顔を眺めた。
第6話『反物質エンジン』へと続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます