第4話 黒い太陽

『 拝啓 コズモ・シェファー船長


 執拗にコズモ船長の後を追い回すような行動を取ってしまい申し訳ありません。先ず誤解ないようにお伝えしておきたいのは、私共イブキ教は、政府と何かしらの利害関係を持つことを目的とはしてはいないという事です。


 我々の目的は、神託をお伝えし、然るべき未来に対処する事です。


 予めお伝えしておくと、神託は必ずその通りにはなるわけではありません。


 しかし、私が行動しない場合は必ずカタストロフィが起こる事がわかっています。


 私が行動し神託を未来の良き方向へ変えていかなければならないため、このように無理矢理にでもコズモ船長の耳に入れようとした所存です。


 以下、神託の内容となります。


 −具体的な日時までは分かりませぬが、こ数ヶ月以内に、太陽が太陽系の全てを焼き尽くすほどの凄まじい巨大フレアを撒き散らす可能性があることが発見されるでしょう。そして、その発見から二十五年ほど後に、太陽は真っ黒になり、巨大なソーラーフレアが起こります。


 そして、我々は決断をしなくてはいけません。太陽系を見限り、新たな場所へと旅立つ事を。はくちょう座の方向、三百光年ほど先に、地球にそっくりな星が存在します。ここへ旅立つことで、人類は生き延びることが可能です。


 しかし、それを達成するためには、先ずはコールドスリープ技術を完成させる必要があります。


 そして反物質エンジンを完成させ、時期に合わせて反物質を生成し始める必要があります。


 今から一年以内に行動することが要となります。ここが分岐点です。ご英断を。


 我々のことを信じなくても良いです。しかし、この手紙を読んで、その可能性に少しでも活路を見出すことが出来るならば、五隻…いや、四隻の船ぐらいならこの太陽系を抜けることが出来るでしょう。


 今のところ降りて来た神託はここまでです。


 詳しいお話を聞きたければ、我々はいつでもお待ちしております。


 コズモ船長が賢明な判断を下し、この可能性に賭けて行動してくれるのならば、我々が援助を惜しむことはありません。この事以外で政府側と繋がる必要も全くありません。


 以上となります。

 教皇チェン 』


 執拗にコズモに接触を図ってきた宗教団体からの手紙である。


「もう連絡してくるな、手紙なら読んでやる。」と半ば諦めさせようと言ったセリフだったが、その後丁寧な教皇直筆の手紙が届いたので、義理で読んだ。


 宗教と政府の癒着など、ロクなことにならない。


 コズモは丁寧に「ご忠告ありがとうございます。」とだけ返して、手紙は捨ててしまった。


 太陽が黒くなるだと?何の冗談だ?


 それに、反物質の生成はではないか?


 狂言に耳を貸すつもりはない。


 利害関係を迫られないだけマシだった、と思う事にした。


 ______________


 その手紙を受け取った二ヶ月半後、ティアナとミミからのまさかの報告…


「…それで、三十年以内にそれが起こると?」


「あくまでも可能性の話です。しかし、決して低い可能性ではありません。」


 ティアナは既に怯えているようで、その声は震えていた。


「そのスーパーフレアとは、どのようにして起こるのだ。」


「宇宙線が太陽の磁力線を妨害し、コロナからエネルギーが放出されるのをブロックしていて…そのままエネルギーが蓄積され続けるという状況になっています。これが二十年以上経つと、ついにはコロナ内で抑えきれなくなり、連鎖反応で一気に放出される可能性があります。その際太陽は黒点で覆われ、真っ黒になり、それがスーパーフレアの前兆となります。」


 ティアナの報告に、コズモは頭を抱えた。


 真っ黒な太陽…


「…このことは、天文学の知識があったり、民間の技術があれば分かるようなことだったりするのか。」


 コズモの言葉に、ティアナとミミは顔を見合わせた。


「…いえ、観測できないと気づくことはないかと…そして、民間で『ミズナ』ほどの大容量AIを抱えることは不可能に近いと思われますが…まあ、時期が近づけば、大容量でなくとも演算できるかもしれませんが…それが何か?」


「いや、忘れてくれ……この情報は、すぐに全ての船と共有しよう。」


 コズモはそう言うと、「報告ご苦労だった。」と言って通信を閉じる。


 少し時間を置いて、コズモは再びティアナに回線を繋ぐ。


「ティアナ技師…唐突なことを聞くが、はくちょう座の方向、三百光年ほど先に、何か留意するような事柄があるか?」


「はあ…何の事でしょう。」


 馬鹿馬鹿しいのは分かっている。


 しかし、確かめずにはいられない。


「そちらの方を重点的の見てくれるか?はくちょう座の方向に三百光年だ。」


「わ、分かりました…」


 その数時間後、ティアナの心底驚いたような声が鳴り響く。


「コズモ船長!驚きました!船長の言っていた場所に、地球にそっくりな条件の惑星があります。惑星の大きさ、恒星からの距離とそのサイズ、AIの判断では99.99%の確率で大量の水が存在し、何もかもがそっくりです!地球と類似する大気が存在する可能性が非常に高いです!テラフォーミングも十分可能でしょう。なんでこんなことが分かっていたのですか、船長!?」


 ティアナが興奮して報告してくる様子に、コズモは言葉を失う。


 コズモは、教皇チェンとの面談の予定を取り決めた。





 第5話『予言の力』へと続く













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