第7話 刺客
「お、きたね」
翌朝、娼館についたときにはフィリア、フィリス、フィリルの三姉妹が俺のことを待っていた。
フィリア、フィリスの2人はやる気があるようだがフィリルは朝が苦手なのか目をこすりながら眠そうにしている。
それに気付いたフィリアがフィリルにげんこつを食らわせ、フィリルは頭を押さえながら痛そうにしていたがフィリスはそれを無視して話を進める。
「今日はどこに潜るの?」
「まずはいつも潜っていたC級。やり残したことがあるからな。そこでやることが終われば他のところに行くつもりだ」
「りょ〜かい。それじゃ行こっか」
俺が動き出すと後ろに3人が横並びについてくる。
最初に来た場所はいつも1人で潜っていた奈落。
「今日は1人じゃないのか」
「ああ。つてを使って3人雇ったんだ」
「そうなのか。でも油断はダメだぞ」
「わかっているよ」
いつも使っている奈落の門番はいつも俺が1人で潜っていたのでよく声をかけられていた。
1人で潜っているのが心配だったのだろう。
何度も話していたため、今では雑談もするようになっていた。
★
奈落を一気に駆け下り、最下層付近につくといつもどおりエルフたちが後ろをつけてきた。
ただこちらの人数が増えても相手の数は変わっていなかった。
「あれから守ればいいんだね」
「そうだ」
「わかった。じゃあ襲われるまで待つね」
三姉妹は奈落に慣れているようで、尾行され始めてすぐに3人に気づいていた。
襲われるまで待つ理由はこちらが先に出を出したという状態にはしたくないため。
先に手を出せば相手にこちらの技がバレる。
少しでも戦闘で有利になるにはこちらの手札を隠すことが重要なのだ。
そして俺が奈落で魔素の吸収を始めたタイミングでいつもと同じように襲撃を仕掛けてきた。
だがいつもと違うのは護衛がいるということだ。
「させないよ〜と!」
俺に向かって伸びてきたツタをフィリアが大剣で斬り伏せる。
それに合わせてフィリスが一気に敵まで突撃していく。
エルフたちは俺に攻撃することをやめ、突撃してくるフィリスに攻撃を始める。
フィリスは攻撃を受け流しなからエルフに突撃するが捌ききれないものもある。
そういった攻撃は後方にいるフィリルが全て撃ち落としていた。
フィリルの使っている武器は魔導銃というものらしく、神話の時代には存在しなかった武器だ。
その武器は魔力を装填し、無系統魔法の魔弾を発射するというもの。
無系統魔法の魔弾自体は神話の時代にも存在していた。
魔弾の魅力は魔力の消費量を増やす殺傷能力が上がるというもの。
ただそれを使うならば他の魔法を使ったほうがいいという使い道のない魔法だった。
それが現在の技術で魔導銃という補助装置を使うという形で効率のよい便利なものになっているようだ。
ただ魔導銃には欠点がいくつかある。
1つ目が新興国の魔導国という国で作られたものであり、その国でしか作られていないため高価ということ。
2つ目は鍛冶屋に持っていったとしてもドワーフは鍛冶とは別の技術で作られた魔導銃を直すことができないということ。
そのため自分でメンテナンスを行わなければならないということだ。
他にも理由はあるが大きな欠点として言われるのがこの2つ。
そんなこともあって魔導銃はほとんどの人が使っていないのだ。
エルフたちは魔導銃から放たれる魔弾を対処するため結界を張る。
結界の内容は魔力を分解するというもの。
それを張られてからは魔弾の威力が弱まり、何度も撃たなければツタを壊せなくなった。
ただ結界を張った頃にはフィリスがエルフのすぐ近くに来ていた。
エルフの1人がフィリスの接近にした対処するため、ツタと木から木製の剣を作る。
木製のため簡単に壊れると思っていた剣はフィリスの双剣を受け止める。
そして動きが止まったタイミングで他のエルフたちからのフィリスが集中砲火を喰らう。
フィリスがそれを避けるため後ろに飛んだが少し遅く、少し怪我を負った。
「連携が厄介ね」
「次は私が行こうか?」
「姉さん。私達は護衛だからいつもみたいに突っ込むはないよ」
「確かに!」
「ならここで守るか」
フィリルの言葉で自分たちは敵を倒すのではなく依頼主を護衛するのが目的だと思い出したフィリスは敵に突っ込むのをやめ、三人で結界の外で迎撃する体勢を整えた。
結界の外での戦闘ならばフィリルの魔弾が本来の威力を発揮できる。
その援護とフィリア、フィリスの連携によりツタが3人より後ろに届くことはなくなる。
そうなるとエルフたちはツタでの攻撃ではなく、自分たちが直接攻撃にしに行く必要が出てくる。
だが近接戦となると戦闘民族であるのほうが得意である。
そのためエルフたちは近接戦を仕掛けたくはないのだ。
この膠着状態が続けばこの奈落の魔素を今日で全部吸収できる。
そう思っていた矢先、不測の事態が発生する。
突如、何者かが上層から降ってきたのだ。
「なんかいろんなやつがいるな」
エルフと三姉妹、そして俺のことを見て降ってきた男が言う。
「それでシンとやらはどいつだ?」
どうやら俺のことを探しているようだ。
その男の顔は見たことがなく、恨みを買うようなことはしていないはず。
そう思っていると右肩に見覚えのある狼エンブレムがあった。
どうやらナングリウス商会からの刺客のようだ。
「返事がねぇな。ここにいるのは確認済みなんだから遅かれ早かれバレるぞ」
その男は俺がここにいることは確認済みのよう。
恐らく商会の権力を使い、門番から俺がこの奈落に潜っているのを確認したのだろう。
予想外のことに驚いたが遅かれ早かれバレるのなら自ら名乗ることにした。
「シンは俺だ」
「ほぉ、お前がか」
男は俺のことをよく観察している。
強いやつなのか確かめるためだろう。
「魔力を隠蔽しているのか。本物の実力者だな」
俺の周囲に出ている魔力を感じだった男はそう言う。
魔力隠蔽はその名の通り魔力を隠すこと。
それを行う理由は相手を欺くため。
本来の実力より弱く見せることで相手を油断させることができる。
ただこの使い方は本来の用途ではなく、魔力隠蔽本来の用途は敵にこちらの実力を知られないようにするため。
そうすることで相手があとどれだけ余力があるのかわからなくなり、戦闘が難しくなるのだ。
俺は目の前の男が魔力隠蔽に気づいたことに驚いた。
昔からこの技を使ってきた俺の魔力隠蔽は初心者のような制御していることがわかりやすくなく、自然な形で周囲に魔力を漏らしている。
そのため簡単にはわからないのだが、見ただけでこの男は気付いた。
どうやら相当の実力者のようだ。
「おい、リスタージュ!なんでお前がここに来たんだ」
「見たことあるやつだと思ったらこの声はフィリアか」
目の前の男はリスタージュといい、フィリアと面識があるようだ。
「俺はこいつに用があってな。それより三姉妹はなぜC級の奈落にいるんだ?」
「私達はシンの護衛だ。貴様であろうと手を出すのならば容赦しない」
「護衛だぁ?こいつはお前ら三姉妹よりも強いはずだぞ」
「シンの実力には興味はない。私達は護衛として雇われただけだからな」
「そうか。それよりも防御が疎かになっているぞ」
リスタージュがそう指摘する。
確かにフィリアがこちらに意識を向けたことでエルフの攻撃が三姉妹を越えそうになっていた。
「安心しろ。今回は危害を加える気はない」
「本当だろうな!」
フィリスが確認をするがそれには返事をせずリスタージュは俺に質問を始める。
「昨日アシュリード商会の荷物を運んだのはあんただよな」
「そうだ」
「なら今回は初めてだから警告にしておく。今後あの商会の荷物を運べばあんたを殺す必要が出てくる」
「殺す必要があるのになぜ今回は警告なんだ」
「俺は失敗は許されるべきと考えているからな。ただしそれは同じ失敗でなければだが」
「道理だ。俺もそう思う。だから今回は警告なんだな」
「そういうことだ。だから次運んだならば俺があんたを殺す」
「ならお前と殺りあう為に運ぶのも一興だな」
「ほぉ、俺と殺り合いたと言ったやつは久しぶりだな。俺が誰か知っているのか?」
「生憎俺はこの街に越してきたばかりでお前なことは知らない」
「ならここで自己紹介してこう。俺はこの街に8人しかいないAランク冒険者の1人、リスタージュ。
「
「俺もこの二つ名はあまり気に入っていないんだ。この名前のせいで悪い印象を持たれるからな」
「話してみればいい奴なのにな」
「そう言ってもらえて嬉しい。できればお前とは殺り合いたくないな」
「そうか。俺は二つ名を聞いてお前と殺り合うのが楽しそうに思ったがな。だが友になるの一興だ」
「そう言ってもらえて嬉しいな。じゃあ俺はこのあたりで帰ろう。次は会うとき敵じゃないことを祈る。あとこれは土産だ」
リスタージュは最後にエルフたちに一発攻撃を放ってから地上に帰っていった。
その攻撃に気付いた三姉妹はすぐに横に避けたがエルフたちはその攻撃を防ごうとした。
だがその攻撃はツタを全て壊し、エルフたちを一撃で戦闘不能にした。
「なかなか強そうだ」
俺はその攻撃の威力を見て言葉を漏らした。
「大丈夫!?」
エルフたちが戦闘不能になり、自由になった三姉妹が俺のもとに駆け寄ってくる。
「俺ら大丈夫だ。3人こそ大丈夫なのか?」
「私たちは避けれたから大丈夫」
「そうか。なら引き続き護衛を頼めるか」
「いいけど、後でなんで
「わかった。戻ったら教える」
その後はエルフたちが戦闘不能になったことで妨害を受けることなく、この奈落の魔素を無事に吸収に完了した。
俺と私の契約期限 @Chaden
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