第17話 決着

「この世の穢れを殲滅する! デストルクティオ・エイド・アヴェスター!」


 シャリテが声を上げると、漆黒の大剣、聖剣アフラ・マズダから光があふれる。

 あふれる光は剣の形を形づくり、シャリテの3倍はあろうかという巨大な光の剣の姿へと収束した。


 転倒しもがいていたオネットが変貌したアーリマンへと、その巨大な光の剣を振り下ろすシャリテ。


「はああああああっ!」

「ギャああアアアあああアアアあああアアアーーーーっっッッ!!!」


 純白の光に包まれたアーリマンの身体が、光に溶ける様にボロボロと消え去っていく。

 そして溶けて消えた肉の塊のあとに残るのは、地面に倒れるオネットと、宙に浮かぶ黒い宝石。


「やったじゃんっ、悪意のエネルギーじゃん!! しっかも、かなり大物じゃんっ!!」


 マスティマがぴゅーっと飛んでいき、黒い宝石にかぶりつく。


「もぉ~~マスティマ、だから慌てて食べたらおなか壊すの」

「なに言ってるじゃん、美少女がおなか壊す訳ないじゃん?」

「もぉ、またそんなこと言うの~~」


 がつがつと宝石を齧るマスティマに心配して声をかけたシャリテだけど、聞く耳持たないマスティマの様子に頬をぷくりと膨らませる。


「じゃあ、他の人ももとに戻しちゃうの」


 そして、倒れたままの他の4体のアーリマンへ向かって歩を進める。


「デストルクティオ・エイド・アヴェスター!」


 シャリテの声に呼応し再び膨れ上がる光。

 そして光が収まると、4人の女生徒と4つの黒い宝石が残された。


「また4つも! やったじゃん、食べ放題じゃあんっ!!」


 目を輝かせ、新たに表れた4つの黒い宝石を抱え込むマスティマ。


 シャリテは、もぉ~~、と言いながら聖剣アフラ・マズダを軽く振る。するとぱあっと光の粒子が舞い上がり、次の瞬間には漆黒の大剣もシャリテの背中の片翼も姿を消していた。

 そしてこちらを振り返ると、輝くような笑顔を浮かべる。


「ソリティアンくんもリリムちゃんも、ありがとうなの。ふたりが居てくれたから、なんとか勝てたの」

「あ、いや、こっちこそ最初から助けてあげられなくてゴメン……」

「いえ、礼には及びません。私はたいして力になれませんでしたし、最後はご主人様に助けられました」


 僕も九大万鈞を消すと、ぽりぽりと頭をかきながら答えた。

 最後は無我夢中だったけど、なんとか少しは力になることが出来たと思う。だけど最後だけだし、「出来るなら最初からやれよ」と言われれば「そうだね、ごめん」としか言いようがない。


 なんとなくばつが悪い僕の横でリリムが、僕に助けられたと答える。

 するとシャリテが「そうなの!」と、その綺麗な金の瞳を大きく見開いた。


「そうなの! あのソリティアンくんの力、なんなのあれっ? ルーン魔術じゃないよね? 見たことない力だし、シャリテびっくりしちゃったの!」

「ああ、あれは僕の作った魔導具で……」

「作ったの?! すっごいの!!」


 驚くシャリテに、僕の作った魔導具――九大万鈞ベゾンダーハイト・ノインについて説明する。


 まぁ各魔導具の詳細な仕様以外となるとあんまり説明することは無いんだけど、僕が『錬金王』のスキルを持っていて、その力を使って作ったこと。……前世の記憶がある事や、リリムがホムンクルスだという事はちょっと言えないから言えるのは本当にそれくらいだ。

 リリムは世界初の自立稼働できる完全なホムンクルスだ。もし他の人に知られればちょっとした騒ぎになるだろうし、リリムも取り上げられたりするかもしれない。だから、リリムの事はちょっと秘密にしておきたい。


 じゃあ九大万鈞はいいのか、と言われればきちんとした説明は出来ないけど。

 『他で見たことの無いようなすごい魔導具』と『噂でも聞いたことの無い完全自立ホムンクルス』では、後者の方がインパクトが大きいような気がする。


 そんな簡単な説明だけど、シャリテはすごいすごいと声を上げながら聞いてくれた。


「すごいの! あんなすごい魔導具なんて王都でも見たことないし、他の国の話でも聞いたことないのね! それに『王』スキルを授かるなんて、ソリティアンくんはすごいの!!」

「あ、うん、あ、ありがと……」


 僕の口からはそんな平凡な言葉しか出てこなかったけど、僕は自分の顔の温度が上がっているのを感じていた。


 僕はいま、真っ赤な顔をしてはいないだろうか?

 貴族子息らしくないスキルだと言われあまり褒められたとのない僕には、正面からすごいすごいと言ってくれるシャリテはとても眩しかった。


「そうです、ご主人様はすばらしい能力をお持ちです」

「うん、すごいと思うの! シャリテは剣と魔術は得意だけど、難しいことは分からないの」


 僕を持ちあげて来るリリムは、こころなしかドヤ顔ぎみだ。AIだから感情なんて無いはずなのに。

 そして、シャリテも純粋に僕をすごいと褒めてくれる。


 僕はどうも照れくさくて、愛想笑いをしながら頬をかくしか出来ない。


「アーリマンの数が多かったからね、シャリテの力になれて良かったよ」

「私はご主人様からいただいた能力がありながら、あまり力になれませんでした。これからもパーティーメンバーとして力になれるよう努力します」


 僕の言葉を受けて、リリムが俯いて反省の弁を述べる。


 いや、だからあれは相手が多かったし仕方ないよ。

 そう思い僕が慰めの言葉をかけようとする前に、まんまるに目を見開いたシャリテが反応した。


「パーティーメンバー? シャリテとソリティアンくん達が……?」

「違うのですか? 私のデータベースでは、冒険者パーティーなどはこうやって仲間とともに怪物や魔物と戦うものだとありますが?」


 こてんと首をかしげるシャリテと、同じく不思議そうに首をかしげるリリム。


 あ、それは僕の前世のラノベ知識がごっちゃになってる……。


 前世で呼んだラノベなんかでは冒険者がパーティーを組んで強大な魔物に立ち向かう、という話がわりと普通だった。華々しく活動する花形職業、というイメージだ。

 だけど、この世界の冒険者は違う。

 考えてみて欲しいんだけど、色々な国家や都市が存在し日常的に交易が成立している世界で、都市を出ればそこらじゅうに魔物がウロウロしているなんて事があるだろうか? いや、無いんだ。

 人が進出していない辺境などに行けばそういう場所もあるけど、人間の生存圏で強大な魔物が闊歩しているなんていう事はない。魔物が絶滅したわけではないから冒険者の需要が無くなったわけではないけど、強大な魔物なんかが出現すれば騎士団が出動するし冒険者の出番はあんまりない。たまに現れる弱い魔物を、騎士団の下請けとしてちまちま討伐する、という感じだ。


 何十年か前までは、街道なんかに魔物の群れが現れて冒険者が出動する、なんてことも割とあったらしいけどね。


 僕がそのへんを指摘しようとすると――


「冒険者! シャリテたちが冒険者パーティーってことなの?!」


 シャリテの表情が、ぱあっと輝く。

 え? 冒険者、ってとこに反応するの?


「シャリテのおじいちゃんとおばあちゃんが若いころ冒険者をやってて、憧れてたの! 冒険者パーティー、シャリテが! ……うへへ、うれしいの」


 目をキラキラとさせたシャリテは、満面の笑顔でへらっと笑う。


 ……そんな顔されたら、否定なんて出来るわけないじゃないか。

 それに、僕も前世ではそれなりにラノベを嗜んでいたんだ。冒険者、という言葉へのあこがれは無いわけじゃない。その冒険者としての活動を、シャリテといっしょに出来るならこんなに嬉しいことはない。


「そうだね、僕たち三人で冒険者パーティー、ってことでいいかもしれない」

「私はご主人様がそれでいいなら、否やはありませんが」


 僕が冒険者パーティーを組むことを賛成してリリムも同意すると、シャリテは「いいの?!」と声を上げ、にへら、と表情を緩める。


「シャリテ、ずっとずっと思ってたことがあるの」


 そしてシャリテはきらきらとした瞳で語った。


「この世界にはいじわるな人、悪い事をしている人――悪意のエネルギーに捕らわれた人が多すぎるの」


 それは……シャリテを馬鹿にした教師や生徒達のことを言っているのだろうか?


「だからねだからね、シャリテが聖剣アフラ・マズダであの人たちを助けてあげるの! シャリテだけが使える、このアフラ・マズダの力で、あの人たちを良い人に戻してあげるの! 間違いだらけのこの壊れた世界を破壊して、シャリテが良い人だけの世界に作り替えてあげるの!」


 彼女は言う。この世界は壊れていると。


「そう――革命なの。世界にひとつだけのこの聖剣の力で、世界を革命するの! 冒険者として、そんな活躍をしてみたいの!」


 すっと差し出される、シャリテの手。


 その瞳は純粋な光を宿し、きらきらと輝いて見えた。

 はじめて見た僕が魅かれ、ずっと見ていたいと思った光。


 だから僕の手は光に魅かれるように吸い込まれ、その手を取る。


 この日、冒険者パーティー『世界革命同盟』は結成された。



 ……ちなみに、マスティマは次の日お腹を壊して寝込んでいたらしい。

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ひきこもり最強錬金術師とおちこぼれ聖剣少女の世界革命 蘭駆ひろまさ @rakunou

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