前のエピソード――12

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　長田橋深の話。

　中学の時の教師にキャバ山っていうのがいてさ。キャバ山っていうのは「キャバクラいってそう」って理由で付けられたあだ名だったんだけど。

　小太りで髪の毛もっさももさで、いっつもなんか汗掻いてるんだよね。清潔感が無いだけならともかくさ、そいつ女生徒にキモい目線向けてることが多かったの。それが嫌われてた最大の理由なんだけど。

　ま、とは言え別に本当に手を出してた訳じゃ無いと思う。目線がキモいだけじゃクビにはならないし。嫌われてたけど学校から追い出されてなかったのは、そういうことなんだと思うんだけど……

　そいつさ。実際に手を出してはいなかったけど、実際じゃ無いところで手を出してたんじゃ無いかっていう話があったんだよね。

　同学年の女子で、一回相談されたことがあるの。

「昨日、金縛りにあった」っていう話から始まって、まぁそれだけなら良くある怪談じゃない？変だったのがさ、その次。

「動けないでいるところにキャバ山がのし掛かってきた」って。荒い鼻息をフーッフーッって吹きかけてきて、そんで……

　実は当時、ちょっと噂になってたんだ。

「キャバ山の生き霊が夜、女子生徒を襲いに来る」っていう話。その女子以外にもそういう風に語ってた人とかいた。

　最初に語った人が誰なのかは分からないけど……私も、私もってみんな言い出して。

　ちょっとした噂になってたんだけど、ただやっぱり噂だし。そんな生き霊だなんて言っても訴えでれないじゃん。それにそのうち教師の耳にも入っちゃって。むしろ生徒たちの方が怒られちゃった。

　……ただね。表向きで語ることは無かったし、巫山戯半分で言ってた人はみんな止めたんだけど……その後も時々ね、金縛りにあってキャバ山が襲いかかってきたって言う女子はいた。みんなマジなの。泣きそうになりながら、もう本当に襲われたみたいになってて。

　そんな時にね、ある女子が言ったんだよね。「私の夢に出てきたらぶん殴ってやる」っていうの。その子空手やってて、たしか県大会にも出るくらいの実力で。気性もちょっと荒かったから。

　それ聞いて、なんかみんな盛り上がっちゃったんだよね。その子が金縛りにあっても良いようにって、金縛り対策とか話し合って……例えば手の親指と小指をくっつけると金縛りが解ける、みたいなさ。そういう話をしまくって。もういつ来てもいいぞ、みたいな雰囲気になってた。

　……そしたらね。本当にその子のところに来たらしいんだ。

　夜中に目が覚めて、身体が動かない。ふと天井を見るとキャバ山がのし掛かってくる。荒い息を吐きながら、へこへこ腰を振って気持ち悪い。

　ブンッ！て。殴り抜けたんだって。親指と小指くっつけたら本当に解けたってさ。それからはもう、タコ殴りよ。もう二度と夢にでれないようにって、念入りにぶん殴った。

　……次の日。キャバ山は学校に来なかった。というかその日から来なくなって、終業式の時に校長が「退職した」って言って、それで終わり。

　詳しい話までは伝わらなかったんだけど……なんか大怪我して半身不随になったとか。これ以上教師続けられないような身体になったって噂だったけど、詳しい話までは分からない。夢にキャバ山が出るっていう話もめっきり無くなった。

　それでその、殴った子なんだけど、彼女がすっごく気に病み始めちゃった。その、生き霊殴って、だし。というか夢かも知れないじゃん。別に彼女が何かしたってことで訴えられたり警察が来たりとか、当然そんな話じゃ無いんだけど。でも、彼女は「自分が殴ったから大怪我を負ったんじゃ無いか」って思ったみたいで。気がついたらその子も学校に来なくなってた。

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