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 弦尾美冬の話。



 先ほども言いました通り、父方の祖母には霊感がありました。

 祖母はその力から周囲に頼られることも多かったのですが……私の父は、まったく視えない。霊的に無頓着なんです。祖母の力についても否定的でした。

 でも、その父が生きてられるのは祖母のお陰なんですよね。

 昔、父が子供の頃、父が腹痛を訴えたことがあったそうです。当時の父曰く「お腹の中をうねうねしたモノが暴れまわっている」ような痛みがあると言われた。

 祖母が視ると……確かに父の腹をもぞもぞとナニかが動き回っているのが視えたそうです。ただ、祖父には視えないようでした。

 とにかく父の痛がりようは凄まじいものがあったそうで、祖父は父を連れて病院に行ったそうなのですが、医者は原因不明と診断したそうで。当然お腹のもぞもぞしたモノも認識できなかったようです。結局、痛み止めを処方して帰されてしまいました。ただ、痛み止めも効果が無い。

 このままでは行けない。父の腹に纏わり付くモノの正体を確かめなければならない、と。祖母は思ったそうです。

「今、貴方たちが暴れまわっているお腹は私の息子の体内です。暴れる理由があるのなら、どうか理由を教えてください」と夜通し祈りました。

 翌日のことです。

 朝、パンッ!パンッ!と凄まじい音が鳴りました。花火か爆竹かというような酷い音だったそうです。祖母は驚いて音が出たと思しき庭の様子を見に行きました。

 そこには……蛇の死骸が散らばっていたそうなんです。ただの死骸ではなく、破裂したような、あちこちに肉片が散らばっているような状態で。

 よく見てみると、その死骸はついさっき出来た、という雰囲気では無かったようなんです。干物のように乾燥していて、まるで昨日破裂させたものを一日中放置しておいたような雰囲気だったと。ただ、昨日にはそんなものはありませんでした。

 祖母は奇妙に思いましたが、ふと直感したそうなんです。

 昨晩、息子の体を蝕む痛みの理由を教えて貰えるよう夜通し祈った。その結果が、この蛇の死骸なのではないか。これは、“彼ら”が教えてくれた理由なのではないか。

 祖母は痛がる父に聞いたそうです。

「最近、何か蛇を虐めたり、そうした状況に心当たりは無いか」

 そう聞くと、どうやら父に心当たりがあったそうでした。

 父は捕まえた蛇に爆竹を呑ませる遊びをしていたそうなんです。当時は駄菓子屋なんかでも売っていたらしいですね。手に入れるのも簡単だったし、そういうむごい遊びをする人も多かったみたいで。

 ただ、父の場合。やってはいけない相手にそれをしてしまった。

 もちろんやっていい相手なんかいません。いませんけど……つまり、復讐する力があるような、そういう存在に酷いイタズラをしてしまったんです。

 祖母はそれを聞いて、まず蛇の死骸を弔うことにしました。

 父が爆発させたという裏山までその死骸を持って出向き、土饅頭を作って埋めた。そうして、息子の罪を許して貰えるよう繰り返し祈り続けたそうです。

「息子は幼く、善悪の区別がついていません。きちんと躾けます。次、同じことがあったらどうしてくださってもかまいません。だからどうか、今回だけは見逃してください……」

 朝から、日が暮れるまでずっと。

 日が暮れて祖母が家に帰ると、父の病状は回復に向かっていました。

 お腹を見てももぞもぞする何かも視えない。

 ああ、私の祈りが通じたんだ……とうれしく思ったと同時に、今後はこうした酷いことをさせないよう、きちんと言い聞かせなければと身を引き締めたそうです。


 この話を父に聞いてみたことがあるんですが、すっかり忘れていました。

 確かに爆竹は良く買っていたし、蛇に向けて遊んだりもしていたけど、そういう腹痛があった記憶はない。祖母の捏造じゃないか、なんて。

 信じられないですよね。爆竹で生き物をもてあそんでいたことを臆面もなく言ってるし、それによって起きた天罰とか祖母の祈りをよりにもよって捏造だなんて。

 ともかく、こういう酷い遊びをしているとこういうことになるんです。この中にはそういうことしてる人はいないと思いますけど……もしやってたら、止めた方がいいですよ。




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