11

*************


 中野衣紅が語った話である。



 高校生の頃の話なんだけど。

 当時、私は写真部に入っていて。今でも趣味だし、色々撮ってるけど、まぁ当時は少し本気でやっていたというか。撮った写真を仲間で講評しあったり、コンテストに出したりしてた。

 撮る種類は人によって色々だったかな。人を撮るのが専門の人とか、主に風景を撮っている人とか。主に天気を撮ってるって部員もいたかな。本当に色々だった。

 なんだけどね。色々撮ってると……その、変な写真が撮れちゃうみたいなのも多いと言いますか。ここにいる人たちは……その、沙也加さんと干乃さん以外はみんな知ってると思うんだけど、私も変なものが撮れちゃったので色々困ったことになったことがあったからね……と、それはともかくね。私以外にも、そういうことになった人っていうのが居て。


 後輩に高橋って子がいたんだけどね。

 彼女は主に風景画を撮ってる子だった。街中を歩いてる時に良いなって思った構図とか建物とかをフラって撮るような、そんなスタイルでね。

 その高橋ちゃんが撮った写真の中で、凄く良い写真があったんだよね。

 横浜にある古い二階建ての洋館を映した写真で、昔お雇い外国人が住んでたとかなんとかっていうものなんだけど。お屋敷の雰囲気自体も良かったし、それを切り取る構図も巧みで。「これなら入賞できるかも」ってくらい良い写真だった。

 ……なんだけどね。それを見た人は口を揃えて違和感があるって言うんだよ。

 その洋館には一階と二階とにそれぞれ窓があって、写真にも写ってたんだけど。

 その窓に。人影が写ってるような気がするんだ。

 あれ、と思って目を凝らすと無くなる。気のせいかなと思って目を逸らそうとすると……その影が。別の窓にいるような気がしてくる。


 例えば一階の窓に人影がいる、と思うとするよね。

 よく見るとそんなのはいない。ただ、いるような気がしただけ。

 でも、そう思うと……次の瞬間、二回の窓にその影がいる!って思っちゃうの。


 私?ああ、うん。私も見たよ。

 どう思ったかと言えば……確かに、そんな気がした。いるって思って、それを目でとらえようとしたら逃げられるというか。

 不思議なんだよね。冷静に考えると別に人影に見えるような要素は無いの。窓にはカーテンがかかってるんだけど、それが影に見えるってわけじゃない。ホント、良く見ると全然人影にも何にも見えない。ただの真っ白いカーテン。なのに、そこに何かがいるような気がしちゃう。


 その写真自体に何かがあるってわけじゃない。

 障りがあったってわけでも無いんだけどさ。


 ……いや、一つだけあったわ。

 高橋ちゃん、それをコンクールに出したのよ。人影っていう意味では変な写真だったけど、作品としては完成度が高かったからさ。

 そのコンクールでは入賞したら審査員から講評がもらえるんだけど、結局その写真は逃しちゃったのね。だから本来は講評はないはずなんだけど……高橋ちゃんの家に、審査員の一人から手紙が届いたんだって。

 この部分は良かったとか、ここはこうするともっと良くなるとか、すごく丁寧にアドバイスも書いてあって。でも、最後にね。

「……今回出していただいた作品も大変完成度が高く、個人的には推薦したい気持ちが強くありました。しかしながら、入選を見送るよう意見をしたのも私です」

「この写真は多くの人目に付かせるべきではないと思います。しかるべき筋を頼って処置をするべきです。必要とあらば私から適切な人物を紹介いたしますのでご連絡ください」

「あなたの技術やセンスは光るものがあります。その芽を潰してほしくありません。どうか、切にお願い申し上げます」

 そう書かれてたって。

 高橋ちゃん、困ってたね。「先輩これどう思います?」って相談された。

 どう思うも何もないよね。私にはどうしようもないよ。

 結局、その審査員さんの言う通りにしたかどうかは分からない。ただ、高橋ちゃんは翌年もコンクールには提出して、そっちでは入賞できた。今も時々連絡取り合ってるけど、元気にやってるみたいだったし。もしかしたら、その写真は「しかるべき筋を頼って処置」したのかもしれないね。




*************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る