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 彼が意識を失い、倒れ込むのを優しく受け止め、ベッドの側面へ座らせた。四肢から力は完全に抜けて、頭を胸元へ垂れている。魂は剣へと定着したようだ。

 私は目を閉じたままの二人に「もう結構です」と声を掛けると、そのまま寝転んだ彼へと声を掛ける。

「さぁ、セキくん。何が視えます?」

 瞬間、彼の口から声が溢れ出た。

「意図、糸、いと。せかいを発火させる心といしきのつながりが、からマリねじれ流れ出て、さながらそれはしなぷすのよう」

 それはまるで彼のようでは無い声。低く唸る獣のように荒く、流暢に演説する弁士のような威厳を持って世界を震わせている。かと思えばところどころイントネーションが可笑しくもあり、チグハグな雰囲気が拭えない声の群れだった。

 呪具の持つ効果の副作用のひとつだ。同時に魔を退ける上で必要な要素でもある。


 人の魂を写しとる。

 それがこの剣の持つ力だった。魂を奪われた身体は糸の切れた人形のように制御を失い、立つこともままならなくなる。

 今、この剣の刃は干乃赤冶の魂そのもの。彼の心そのものだ。それはつまり……人の心より生まれた怪異に干渉することが出来る手段ともなる。

 今、彼は剣の中から世界を視ている。それは私たちに視えるものとは少し違っているようで、何でも無限に糸が連なったようなものであるらしい。

説明されてもよく分からなかった。彼も説明し辛いという。剣の中から視た光景は、まるで寝覚めの夢のように失われていくから、ということだった。でも非常な世界を視ているのは確かで、それはかなり羨ましい。

 今の彼から溢れ出た言葉は、今視えている光景を言葉にしたものだった。魂を失った身体は本来、喋ることも出来ないのだが、実験と経験を繰り返し……彼曰く、細い糸を辿るように言葉を肉体へと送り届けて……こうして外の世界に、いま視ているものを辛うじて出力している。

 この時の彼の言葉は煩雑で支離滅裂で、理路整然としたものはひとつもない。だけど……なんとか、彼の言葉を取っていく。

「かのじょから、大きなみきが、振り子のようにチックタックチックタック。かれからあふれるものは失く、細いいとがふたりのあいだにずっとあふれでるだけ」

 ……解釈できる内容はいくつか。それが合っていれば、私たちの事前の予想通りということになる。

 

 宇賀さんと天野さんを見る。先ほどまで和気藹々とした雰囲気すらあったが、今となっては異様なものに直面した緊張が二人にみなぎっていた。無理も無い。しかし儀式とはこういうもの。トランスと託宣は常識を破壊し、緊張を強いる威厳があるから力を持つ。

 それは私には無いもの、私には持ち得ないものだ。だけど、その言葉を解釈する権利は私にある。

 最後に、私は宇賀さんに声を掛けた。最後の確認だ。

「それでは、怪を断ちましょう。……後悔は無いですね?」

 私と彼女の視線が重なる。しばし瞳を伏せ、沈黙が流れる。

「……はい」

 ならば、するべきことはひとつだけ。

「かのじょのあたま、うしろがわからながれるように、むげんにあふれでるもの、それが振り子のこんげん」

 宇賀の背後に立つ。私には視えないが、彼の言葉を解釈すれば、どうすれば良いかは分かる。私は剣をかざし、虚空に向けて振り下ろした。



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