第4話 サプライズ
男が神保町駅を出て、僕は男の後をつけて行った。
神保町、僕が暮らす街だ。まさか、この街で爆弾騒ぎなんて。
平和に暮らしている僕の周りにいる人たちの顔が次から次へと浮かんできた。
必ず阻止しないと、許されるはずないじゃないか。
「紫音、例のテロリスト、神保町で降りた。
今、まだ後をつけている。俺、どうすればいい?堀田さんたちはなんか連絡あった?」
『いや、堀田さんからはあれから何も連絡がないんだ。とにかくその男が何処に行くのかはっきりさせよう。』
「わかった。とにかく最後まで尾行を続ける。」
僕は見慣れた街並みを見ながら、この景色が最後に見る景色にならないことを祈りながら歩いていた。
すると、驚いたことに男は紫音のBARが入っている雑居ビルに入っていった。
嘘だろ!!まさか、ターゲットがこのビルだなんて。僕の大切な人たちが犠牲になるところを想像してぞっとした。
慌てて、もう一度紫音に電話をする。
でも、紫音は出なかった。なにかすごく嫌な予感がした。もしかしたら、あの男の仲間が到着して、拘束されているんじゃないのか!!
そんな不安が沸き上がってきた。
僕は、急いでビルのエレベーターに飛び乗った。
KINGのドアを開けると、店内は真っ暗だった。
「紫音!!紫音!!大丈夫か?おい、返事しろ!!」
僕は店内に入って紫音の名前を叫んだ。
すると、いきなりまぶしい光が目に入り、パーンという大きな音がした。
あまりにまぶしすぎて目が眩んだ・・・
「サップラーイズ!!」
「迅君!!お誕生日おめでとう!!」
光に少し目が慣れてきた僕は、目の前の状況がいまいち理解できなかった。
KINGには堀田さんと岸くん、そしてQueenのママとモモちゃん。そして、あのテロリストの男がいた。
「え?どういう状況?てか、なんでこの男が?堀田さん、この男爆弾魔ですよ。っていうか、紫音は?」
「爆弾魔なんていないよ。爆破予告なんて来てたら、俺たちのんびりここでお酒飲んだりできないっしょ」
岸くんがニコニコと笑いながら言った。
僕は状況が把握できずに、混乱していた。
すると、テロリストの男が顔を剥がした。
そのテロリストの男は、紫音だった。紫音が特殊メイクで変装していたんだ。
「お前さぁ、ほんと気づかないんだもん。色々ヒント出してたんだけどなぁ。」
紫音がニヤニヤしながら言った。
「ヒント?…あ!あの本!!近代能楽集と黒猫!!」
「そう!はい、じゃこれ誕生日プレゼントな。読めよ。面白いから。」
そういって紫音は本を二冊僕に渡した。
「それから、これもな。お前が欲しがってた時計。これ買ったときのお前の眼が忘れられないよ。刺されるんじゃないかと思ったよ。」
「ちょっと待って、きちんと整理させて。爆破予告はなくて、爆弾魔は紫音で。だから・・・?俺。だまされたの?」
「あ、やっと理解した?誕生日のサプライズだよ。」
「はぁ?めちゃくちゃ怖かったんだぞ。初めての尾行だし。爆弾持ってるかもっていうし。」
僕が紫音に食って掛かっていると、ママが
「迅君、私たちがサプライスやろうって言ったのよ。ごめんね。」
と申し訳なさそうに謝ってきたのに、
「でも、どんどんエスカレートしたのは紫音だよね。」
と罪のない笑顔で言ったのは岸くんだった。
「まぁ、ありがと。誕生日プレゼントも嬉しいよ。ドキドキだったけど、いい経験だったかもね。でも、次はもう少しライトな奴にしてくれ。」
「じゃぁ、仕切り直して、お祝いしましょう!!
ほらほら、主役はそこに座って!!ケーキは紫音君の手作りケーキだからねー。美味しいオードブルもデリバリーしたから。今日はお祝いよー!!」
ママがテキパキと仕切って用意してくれる。
一年前には考えられない誕生日だ。一年前は僕はブラック企業の社畜だった。それに比べると刺激的で、そして暖かい。
こんな仲間がいることが、とてもうれしいとおもった。
「あ、迅。今度、尾行の特訓な。あれじゃ、対象者にバレバレだ。」
尾行ーTheDetactive KP KPenguin5 (筆吟🐧) @Aipenguin
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