第34話 福岡天帝②

「……くぅっ!」


 天王寺は当初の予定通り、葵に接近してその剛槍を叩きつけた。


「……ふふ、ふふふふふふ……!!!いいよ、素晴らしい力だね。……その圧倒的なチカラを真っ向から叩き潰してあげるから!」


 葵は珍しくハイになっていた。

 最近では敵になる相手もめっきり減ったので、己と伍する……否、個人戦なら負けの可能性が高い相手と戦えるというのは喜びでしかなかった。

 この喜びの前には感傷は吹き飛びかけていた。


 冷や汗をかきながらも、表情は笑みで満たされていた。


「圧倒的……。この程度のチカラで圧倒的と呼べるものか!ふざけるな!」


 天王寺は圧倒的と呼ばれたチカラを振るいながら、その絶対性を否定する。

 真に己のチカラが圧倒的であったならば、如何に葵や佐々木が優れたスター性を持っていようともここまで注目度に差をつけられることはなかっただろう。


 激昂しながらチカラを振りかざす。精神が安定しない彼にしては珍しく、安定して、なおかつ最大出力に近い力を出し続けられていた。


「(……この感覚は、いつもと違うな。身体が、そして精神が最適化されているような……。この感覚ならば、一矢報いる……いや、勝てる!)」


 天王寺は猛攻を続ける。

 そのパワーは見たことのないほどのものであり、間違いなくアマチュアのレベルなんてものははるかに超越していた。


「強い……強い!流石にここまでの選手だとは思ってなかったかな……。でも、負けてやる趣味もないから」


 互いに戦法を使用し、破壊の領域は拡大し続ける。


「……せいっ!」


「っ……甘いよ!」


 いつの間にか、天王寺の猛攻に押され気味になっていた。

 しかし、抗せないわけでもない。

 戦法や技術の練度では遥かに勝っているし、膂力においても今の最強状態の天王寺相手でもそう劣ってはいないのだから。

 だが、体格の差がやはりネックになる。


「これで、この程度で、高校ナンバーワンを騙っていたのかァッ!」


「それは外野が付けた勝手な称号だよ。でも、それに恥じない戦いはしないといけないよね」


 祓流の技の数々を繰り出し、なんとか対抗する葵。

 しかし、徐々に劣勢に追い込まれていく。


「(このままだと……)」


 負ける。

 しかし、それは局地的な敗戦に過ぎない。各地の陣攻防に置いては天味が有利を取っており、陣を落とし続けて勝利するのは目に見えているし、陣効果による強化弱体が組み合わさった状態で梨花が天王寺と向き合えば、それはそれで勝てるだろう。


 要するに、時間を稼げればいいのだ。


 だけど、葵は負けず嫌いだった。

 他人に劣っていることが嫌いだ。己の魅力が翳るから。見向きもされなくなるのが怖いから。

 だから、負けられない。

 

 互いに共通する思いは同じだ。


『他者に必要とされたい』

 たったそれだけのこと。それを成すために天王寺には資質が薄く、葵には強い資質があっただけ。


「……流石に強いね」


「今この瞬間においては、俺はお前より強い。俺はお前を上回ったんだ。……この一瞬だけにしてなるものか。プロでも、アメリカでも……お前には負けてやらん!」


「そうかもしれない。『今のわたし』は君より弱いかもしれない。だけど……負けるのだけは許せない」


「同感だな。俺もお前にだけは負けられないと思っている」


「……うぬぼれ過ぎだよ。わたしは君にだけ負けたくないわけじゃない。あらゆるプレイヤーに負けたくない。勝ちたい。勝利したい。そうじゃないと、私には価値なんてないから」


 その言葉に、天王寺は一瞬だけ……泣きたくなるほど悲しくなった。


「(既に、そこの意識の時点で負けていたのか……?)」


 天王寺の刃が鈍る。

 剛槍の一撃は遥かに弱まり、未だ強烈な一撃なれどこの戦いのスピードに慣れた葵には届かない。


「そんな意味のないことを考えている時間があるわけないでしょ!」


 しかし、一喝。


 心根を見抜いていた葵は天王寺に対して喝を入れた。


 天王寺は目を見開いて……一呼吸。


「……そうだな。ああ。色々わかってきたみたいだ。……ここからが本番だ!」


 『本調子』を『再び』取り戻した天王寺は、今までにない滾りを感じながら、獲物である十文字槍を葵に突き出した。


「っ……やるねっ!」


 次の一撃は、今日のどの攻撃よりも純化されていた。


 そうして攻防を続けていく。その間、葵もただやられているばかりではなく猛スピードで成長を続けていた。

 しかし、最初の時点の差が大きすぎたこともあり、いずれ勝負がつくのは目に見えていた。天王寺の勝利という形で。

 ……が。


「ぐ……」


 急激に天王寺のパワーがダウンした。

 ……福岡天帝、本陣陥落。


「はははっ!俺もやればできるんだ!」


 大きな違和感を感じた天王寺が後方を意識すると、黒木が笑いながら大剣を掲げている様が薄らとよぎった。


 その影響を受けて、天王寺はパワーダウンを食らっていた。


「間に合ってくれたね。……試合に勝って勝負に負けちゃった、ってところかな。死ぬほど悔しいね。許せない。でも、やっぱり勝負で勝ったのは『天王寺』であっても試合で勝ったのは『天味』。それだけは揺るがない。続きはプロの舞台で、またやろうか」


「クソっ!もう少しだったのに……!」


 泣きそうになるほどの悔しさを心に留めながら、葵はそう言って刀を振るい、何発か切りつけた後に止めを刺す。


 その後、各地の選手たちの決着も着き……勝負は決まった。

 天味学園の勝利であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘブンズセンス〜有名スポーツ選手なわたしはTSして美少女になってもハーレムを築きたい!〜 小弓あずさ @redeiku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ