第8話 帰る前に
撮影も無事に終わり、時刻は夕方の6時を示していた。
「おつかれ、煌羅」
「ありがとう、お父さん」
仕事を終えてみんなの所へ戻る途中、お父さんが水を持ってきてくれた。
いつもはお母さんも一緒に来てくれるのに、今日はどこを見渡しても姿、形が見当たらない。
「お母さんは?」
「病院だとよ。しばらくはここで入院することになるかもって話だ」
「ってことはいよいよ私の弟妹が産まれるってこと?」
私はキラキラした目でワクワクしながらお父さんに聞いた。
「いや、まだ産まれないよ」
「なぁ〜んだ。浮かれて損した」
3歳児ながらとんでもない発言だったなぁと今になって思う。水斗君のおかげで知識が着いたのは良いけど少しイキリ過ぎてたかな。
「お前、本当に3歳なのか?」
お父さんがこう思うのも仕方ない。なぜなら3歳児が『浮かれて損した』なんて言うんだから。
「それはそうと、とりあえず病院行くか。もちろん、お友達も連れてだよ」
「はーい」
そう言いながら私はみんなのところまで走っていった。
「あ、煌羅ちゃん。こっちこっち〜」
猩華ちゃんが手を振りながら叫んでいる。相変わらず元気で大荷物である。
「なんか撮影前よりも増えてない?お土産」
「えへへ、沙羅さんへのお見舞いの品を追加したんだ。休憩時間に」
「へぇ、休憩時間にはもうそうだったんだ」
知らなかった。話してくれれば良かったのに。
「ごめん。でも、沙羅さんが『演技に集中して欲しいから黙ってておいて』って言ってたから」
「なるほど。葵衣君が言うならそうなんだね」
「なんか、俺がしっかりしていないような口ぶりじゃないか」
水斗君がそう言うと笑いが起こった。やっぱり、このメンバーでいると楽しいと思った。
「とりあえず、みんなでお母さんのお見舞い行くから準備して」
「Yes Your Majesty」
「そういうところよ、水斗君」
また笑いが起こる。こういう交友関係が1番だなぁと感じる。
「お、やっと姫君達が戻ってきたぞ」
「武斗、その言い方は何とかならんのか」
「へぇ、水斗君の言動は遺伝だったのか」
葵衣君がぼやく。そのぼやきにお父さんは呆れながらため息混じりに武斗さんへ
「親が親なら子も子だな」
と、皮肉を言った。
「わりぃわりぃ。だが、お前のその言葉遣いも産まれてくる息子に遺伝するかもよ」
「それは無いな。俺は子育てには細心の注意を払っているからな」
親たちは親たちで青春している。大人になっても青春はできるんだなぁと思った瞬間であった。
そして武斗さんが咳払いをしてから言った。
「そろそろ出発するぞ。中車さん、子供たちをよろしくお願いします。こっちは運転するので。
―――――煌紅が」
「おい、そこはお前じゃないんかよ」
「そうですか。では煌紅様、坊ちゃんをよろしくお願いします」
「もう俺は坊ちゃんなんて言われる歳じゃない。もう立派な大人だ」
「ほっほっほ、私にとってはまだ悪ガキ2人組だよ」
中車さんが遠い目をしている。親にとって子はいつまでたっても子どもだってのと同じ理論なのかな。
なんだかんだで2人の面倒を1番見ていたのが中車さんだったらしいから。
「さて、我々も病院へと参りましょう」
そう言われて私たちは車に乗ってお母さんが入院している病院へと向かった。
組長娘の青春は茨道 煌-KOH- @koh-suke
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