第7話 裏話

「うわー、すっげー都会だなぁ」


葵衣君がとてもはしゃいでいる。それを国士家の運転手さんが抑えている。


ちなみに運転手さんの名前は中車雅紀さん。御歳70である。


「確かに福井に比べれば名古屋は都会ですけど、日本にはここに負けずとも劣らない大都会が沢山あるんですよ」


「へぇ、行ってみたいなぁ」


「いつでも行けますよ」


孫とおじいちゃんみたいな2人だなぁと思いながら見ていたら、その向こうで水斗君が自分のお父さんと喋ってるのが目に飛び込んできた。


「なんか、爺と孫みたいな光景だな。ところで父さん、組長さんと何を話してたの?」


「それはだな……」


時は少し遡り出発前。


「おい、武斗。話したいことがある」


「なんだ、煌紅」


「とりあえず煌羅の撮影、及び沙羅の付き添いに行きたいから車出してくれ」


「了解」


そして2人は車に乗り込んだ。


「さて、早速本題に入らせてもらう。まずは『九頭龍学園』の開校おめでとう。ただ、九頭龍の龍の字が間違っているぞ。『九頭龍』じゃなくて『九頭竜』じゃないのか?」


天星煌紅が真面目な顔で聞いた。それを国士武斗はおどけた感じで返す。


「だって竜より龍の方が字面がカッコイイじゃん」


煌紅は語気を強めて言った。


「カッコイイじゃん、じゃねーよ。普通に考えて地名だったら漢字変えたら駄目だろ。」


「でも、『九頭竜』より『九頭龍』の方が良いだろ」


「違いが分かんねぇよ。お前は昔から変なこだわりあるよな」


「うるせぇわい。その変なこだわりにお前は何回救われた?数えてみぃよ」


「んなもん知らんわ。そんな事考えたこともなかったわ」


「この恩知らずが。恋のキューピットに対してなんだ、その態度は」


「知らねぇよ。テメェがいつ俺と沙羅をくっつけたって言うだよ」


言い争いではあるが喧嘩と言うほど声を荒げておらず、ただし火花は散っている。仲がいいんだろうな。


そんなこんなの言い争いが移動中ずっと続いたというのに、今は都会にはしゃいでる葵衣君を抑えている。


「車の中では色々言ったがお前の運転手はすごいな」


「珍しいな。煌紅、お前が人をそんなにストレートに褒めるなんて」


「そりゃ褒めたくなるよ。俺たちの会話を聴きながら運転してたのに、今はガキのお守りしてんだから」


「ほんと、中車さんほど忍耐力の化け物はいねぇよ」


「父さん、昔は悪ガキ2人してって叱られてばかりだったって聞いたけど」


誇らしげに運転手のことを語っている武斗に水斗君がツッコミを入れる。


「はっはっはっ。そのおかげで忍耐力の化け物ができたんだ。感謝して欲しいものだよ。それに暴れ回って中車さんを怒らせてたのは俺じゃなくて煌紅だよ」


水斗君のツッコミをサラッと受け流したつもりだったんだろうけど、最後の一言が余計だったようだ。


武斗さんの背後に握り拳を1つ作った鬼が殺気のようなオーラを醸し出して立っている。


「どこの誰が暴れ回ってたって?」


「だから、お前が暴れ回ってたからって………おい煌紅落ち着け、とりあえずその殺気を抑えて」


「元はと言えば、テメェが俺にちょっかいかけまくってたのが原因だろうが!」


「いい大人が醜い言い争いをしてるよ。あんな大人にはなりたくないな。ね、煌羅ちゃん」


「うん、そうだね。水斗君」


都会に浮かれている葵衣君、言い争いをしているいい大人2人、それを見守る中車さん、いつの間にかお土産を沢山ぶら下げている猩華ちゃん、演者さんたちに挨拶をしているお母さん。


「なんだか楽しい1日になりそうね。あ、くれぐれも撮影中は暴れないようにってお父さんたちに言っておいて。私はそろそろ行かないとだから」


「了解。マネージャーに任せておいて」


そう言いながら胸をポンと叩く水斗君。


「まだマネージャー"候補"だけどね。大人じゃないから」


「ブレないね煌羅ちゃんは。でも大人になったら絶対に煌羅ちゃんのマネージャーになってあげるからね」


「わかったわ。楽しみにしてる」


さてと、ショーの始まりだ。



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