第6話ちょっとした旅行気分

「お姉ちゃんになるってどうゆうこと?」


猩華ちゃんがびっくりしながら聞いてくる。


「そのまんまだよ。私に弟と妹ができるの」


これも衝撃的だったのか3人の驚きの声が車内に広がる。


「うるさいぞ!少しは静かにしろ!運転に集中できん!」


「まあまあ、落ち着いて」


怒鳴り声をあげる運転手をお母さんが宥める。運転手は天星組若頭の稲葉羽亜さん。


お父さんとお母さんの幼なじみで、名前からイナバウアーなんていじられたりしている可哀想な人。


でも力は一流で、組内でも一二を争う強さを持っている。そして無類のアイドルオタク。


そんな稲葉さんに向かって、水斗がちょっかいをかける。


「それにしても、イナバウアーさんってカタギじゃないのに庶民的な趣味してんだな」


「あ?んだとこのガキが。お嬢の彼氏かなんだか知らんが喧嘩売ってんなら買ってやるよ」


「どうしてそうなるの。水斗君、稲葉さんは1人で組を壊滅させたことがあるくらい強い人なの。稲葉さんも子ども相手に凄まないでください」


「分かりやりした。すみません、お嬢。それに水斗君って言ったかな。カタギって言葉は知ってんのに子どもがどうできるかは知らねぇみてぇだな。」


お母さんが仲裁に入ると、稲葉さんはあっさりと引いた。


そして、逆に水斗にちょっかいをかけ返す。


「それくらい知ってます。コウノトリが運んでくるんですよね。」


「あぁ、そうだ。で、それからどうなる」


「あ、えーと、それは…」


「知らねぇか。そのあとは母親となる人のお腹の中に命の源を授け、成長させる。お腹の中にいる新しい命が大きくなるから妊婦さんのお腹は膨らんでいるんだよ」


「へーそうなんだ、それはお父さん教えてくれなかったわ。ありがとうございます。稲葉さん」


「礼儀正しい坊だな。お前ならお嬢をあげてもいいかもな」


「稲葉くん、私の娘を勝手に嫁に出さないでください」


車内にちょっとした笑いがうまれる。


「いつもはお嬢と姐さん、そして猩華嬢と俺の3:1だったから息苦しかったけど今回は国士君と歩音君がいるから楽だわ。これからもお嬢の撮影見に来てくれ」


稲葉さんがそんな事思っていたとは知らなかった。


その後、目的地に着くまで男衆、女衆分かれて話をした。


女衆は演技について、男衆は恋愛について話してた。


そんなこんなをしていると目的地に着いたようで


「さぁ、着きましたよお嬢」


「ありがとう、稲葉さん」


「無問題、俺の目的はあれだから」


そう言いたがら稲葉さんは電柱に貼ってあるポスターを指さした。そのポスターは超人気アイドルのポスターだ。


「なるほど。だからウキウキで運転してたんだな。」


稲葉さんの目がワクワクしたものから絶望へと変わった。


「何故、組長がここに来られたのですか?」


そこに居たのは私のお父さん、それから水斗君のお父さんだった。


「自分の子どもが生まれる瞬間に立ち会わない親が何処にいる?」


お父さんが威圧しながら稲葉さんに詰め寄る。


「そ、それもそうですね。しかし、どうやってこちらに?」


「こいつの運転手に頼んで連れてきてもらった。何せ、お前の運転してた車は6人乗りだったからな。」


そう言いながら水斗君のお父さんのネクタイを乱暴に引っ張っている。


「お前がチンタラ走ってくれたおかげでこいつに聞きたいこと全部聞けたからよかったけどな。」


「はは、それは良かったですね」


「ばーか、皮肉だよ。もっと早く走れよ。高速乗ってんだから走行中に沙羅が出産しそうになったらどうするつもりだったんだ?」


「それは……」


その後10分ほどお父さんの稲葉さんに向けての説教は続いた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る