第5話 仕事へ

幼稚園に入園して半年がたった。入園してまもない時は氷河期並に凍りついていたこのクラスはレクリエーションによって全員が仲良くなった。文字通り、アイスブレイクのレクリエーションであった。


水斗の計らいによって勉強会の時間もでき、全員が漢検5級を受け、全員が合格するという偉業をなしとげたのである。


ちなみにノリで4級も受けてみようと言う話になり、絶賛猛勉強中です。


「煌羅ちゃん、次のドラマの撮影っていつ?見に行きたいから教えて」


そう聞いてきたのは短く、茶色がかった黒髪をツーサイドアップにしている女の子。


彼女の名前は仁佐猩華(にざしょうか)ちゃん。若干4歳にして恋愛ドラマを見すぎて余計な知識が沢山ある。


「目当ては私の演技じゃなくて恋愛のシーンでしょ?」


「いいじゃん、煌羅ちゃんのケチ」


「別にダメとは言ってないじゃん」


「ってことは行っていいの!?」


「良いよ。撮影は明日からだよ。見に来たいなら7時までに私の家に来てね」


そんなやり取りを遠くから見つめるひとつの影。この日は九頭龍学園高等部の保育コースの現場実習の日であった。


「あの空間なに?なんかちょっとゆりが咲き誇ってんだけど」


「こら」


女子高生のつぶやきに久慈先生が間髪入れずに注意する。


後で知ったことだけど、このふたりは兄妹だった。


そんなこんなで、楽しい一日がすぎ翌日。


「さあ、しゅっぱ〜つ。と、行きたいところだけど、なんであんたらがいるのよ」


私の家にいるのは、昨日約束した猩華ちゃんと、野郎2人。


1人はベージュ色の髪を後ろの方で結っているかわいいザ・ショタ、歩音葵衣。


もう1人は黒い短髪でメガネの優等生キャラの国士水斗。


「まあまあ、いいじゃないの。みんな、いつも煌羅と仲良くしてくれてありがとうね」


「いえいえ、とんでもないです。こちらこそお世話になっています」


「猩華ちゃんはお世辞が上手いね。誰かさんに似て」


お母さんがそう言いながらジト目で見てくる。はは、これには苦笑いしかないや。


「それじゃあ、娘をよろしくお願いします」


猩華ちゃんの母親がそう言いながらお母さんになにか渡している。


そしてその向こうでお父さんと水斗君の父親がなにか喋ってる。


あれ?あの人どこかであったことがあるような、いや、気のせいかな。


「それじゃあ改めて、出発進行〜」


というわけでこの4人で初めての遠出が始まった。私は仕事だけど。


「沙羅、大丈夫か?」


「大丈夫よ。もしもの時は向こうの病院に駆け込むよ。」


「ねえ、煌羅ちゃん。煌羅ちゃんのお母さん何か病気なの?」


「いや全然。いたって健康だよ」


「じゃあなんで病院なんだ?」


葵衣君も一緒になって聞いてきた。


「実はね、私、お姉ちゃんになるの」





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