未送信メール(フィリア)
深夜の23時、今日が終わりを唱える常闇の時間。そして、『私が私ではなくなる』特別な時間。
『今日は服を買いに行ったの。フィリアに良く似合う白いワンピース一目惚れしちゃった。今度出かける時はぜひ着てほしいな。』
『調合に必要なハーブが枯れちゃった。最近気候が安定しないから上手く温度の調節が出来なかったのかな。フィリアだったらきっと上手くできたんだろうな……』
『明日は友達と出かけにいくの。美味しいパンケーキのお店を知ってるんだって。フィリアの好みに合えばいいけど、きっと彼はフィリアの好みのお店に連れて行ってくれそうだよね。』
「……そうね、あの子は私の好みをよく分かってるから…不安はないわ。」
私はそう言ってそっとメールから目を逸らす。そして座った姿勢のまま体を丸くし、膝を曲げ額を押し当てた。
分かっている、こんなことをしても意味は無いのだと。こんなことをしても、彼女は私の元に戻ってくることは無いのだと…。記憶の奥深くに佇む彼女の姿も彼女の微笑も、『私が私と決別しない限り』永遠に見る事は出来ないのだ。
頭ではわかっている、そして私の毎日しているこの行為も、はたから見たら奇怪な行動以外他ならない事も理解している。分かっているのだ…。全て、頭では全て理解している。
でも……それでも、
1度得てしまった温かさは、簡単に手放せない。
1度見つけてしまった贖罪行為の満足感は、簡単に抑えられない。
「………貴方とも会わせてあげたかったわ…エーファ。………私たちを、救ってくれたかもしれない彼に…。…貴方がいつもそばにいたあの時に、会わせたかった。」
自然と目頭が熱くなる。何回、何十回、何百回と思っただろう…彼と出会ってから何千回言葉にしたくなっただろう。庶民の味方であり、悪人でありながらも真面目で誠実な面もあり、自身が魔術師であり魔女狩りに否定的だった貴方なら、私たちを助けてくれたのでしょう、と。彼女が死なずに済んだ、私たちはずっと一緒に居られたのだと。
何回も何回も何回も何回も…
「…願望論は嫌いよエーファ。どんなに願っても、もう叶わないでしょう…?」
涙で少し声を枯らしながら、私は『私』へ呟く。そして零れた涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。
これ以上はいけない、私の心の限界を刺激しそうな『私』は早くしまわないと。
私はフィリア。ハーブの調合が得意で、明日友人と出かけに行くためこれから準備をしなければいけないフィリア。双子の妹を昔に亡くした、妹の姉であるフィリア。
「……明日は白いワンピースを着ていかないと。これだけじゃ肌寒いから、なにか羽織るものも欲しいわね…」
私はそう独り言を呟くと、『未送信メール』を閉じ、明日着ていく服を合わせる為に立ち上がった。
FuMa Lum-D.C @Pochi_sosaku
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