ヘイラーと降矢の昼休み
「………え、何だその弁当…。」
「い、言わないで!そんなの自分が1番よく分かってるから!」
ある昼下がり、仕事の打ち合わせの休憩に昼食として器を広げた降矢に思わず言葉が出る。
それは一言で言うと「混沌」だった。仕切りで2つに分かれている弁当には、片方には白米に肉1枚が乗っかったなんとも言えない料理、片方にはブロック型の栄養食品が置かれている。
偏った食生活なんてレベルじゃない。こんなの腹に入れられれば何でもいいという暴論が具現化したブツではないか……。
前々から降矢の食生活には一抹の不安を覚えていたのだが、今日この弁当を見てその不安がさらに増幅したのは言うまでもない。
「……降矢が死ぬ…」
「見栄えが悪いだけで別に毒じゃないよ!?」
このままでは降矢の食生活が偏りすぎて体を壊してしまうという前置きを置くのを忘れて言葉にしてしまったが、それくらい衝撃的だった。
しかし私はそんな降矢の勘違いを訂正せずに、その衝撃を糧にし声を張り降矢に告げる。
「…降矢、お前の昼食は前から見てきたが色々酷いぞ。特に最近は酷い!色味までとやかく言うつもりは無いが、せめて栄養バランスが取れるよう食品を選べ」
「僕の世代にとったらヘイラーの言う「せめて」って割と難易度高いよ!?……さ、最近は昔と比べて色々な仕事が入ってくるから、昼に時間かけてられないんだよ…。食べるのはもちろん作るのも時間がかかるし…。心配してくれるのは嬉しいけど、僕は今好きで仕事をしてるからこれでいいんだよ。」
降矢はそう目を逸らし言いにくそうに呟くと箸を手に取る。
私はマネージャーの仕事を全て把握している訳では無いが、現地に赴き仕事をするのがメインの私とは違い、降矢のメインは現地外の私の予定調整だ。実質、降矢は私が仕事を終える時間から本格的な仕事を始め、私と居る時は送迎や当日打ち合わせなど私のサポートをしてくれている事になる。
そう考えると、確かに降矢は自分の生活を省みる時間も、自分のための時間もなかなか取れないのではないか…。
「……作るのに時間がかかる…。」
そしたら、そんな忙しい降矢のサポートをするのは私の仕事だ。
「じゃあ明日から弁当が必要な時は私が降矢の分も作る!」
「え!!???」
突然の予想外の宣告だったからか、降矢は驚嘆の声を上げる。
「い、いいよ!ヘイラーが大変だし食費もかかるし…」
「1人分から2人分になった所で別に負荷はかからん。食費も気にするな、降矢の分の増額程度増えてないのと同義だ。」
「僕、あまり味わって食べる時間ないし…」
「目的は降矢に美味いと言わせることじゃなくて降矢の栄養バランスの調整だ。どうせ夜もまともに食べてないんだろう?」
「ぅ……。……僕の分の、よ、容器の問題とか色々あるし……」
「どの辺りが問題なんだ……!?苦しい抵抗するなら諦めて私に身を委ねろ!」
「言い方!!!!!」
降矢はそのあともモゴモゴ言っていたが、私はその全ての言葉に毅然とした態度で返答する。
本気で嫌がっていたら降矢なりのこだわりがあるのだと身を引く事も考えたが、降矢は最初の反応から今の今まで、抵抗はしつつも拒絶はしていない。
降矢の性格や職業上、最初から他人を頼るのが苦手なのだろう。降矢は何かと遠慮する場面が多いが、本気で断っている場面はそこまで無かった。
「……決まりだな。」
私はそう言い切ると、話を無理矢理区切るように自分の弁当に手をつける。
自分が作った料理の評価はなかなかに厳しくしている事は自覚しているが、人に食べさせられない出来では無いことも同時に自負している。あとは降矢の好きな食べ物や味付けを施せば、降矢も多少は食べやすくなるだろう。
「………ありがとう…。」
心の中でずっと葛藤をしていた降矢だが、どうやら諦めたが着いたらしい。降矢の敗北宣言を聞き、私はニヤッとほくそ笑んだ。
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